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クラウディオはブラント家の跡継ぎでした。
けれど十年前、隣の領地との境界争いで命を落としてしまったのです。十九才という若さでした。
父であるご領主さまがどれほど嘆かれたことか。お母さまは悲しみのあまり、床に伏してしまうほどでした。
ディオンはクラウディオでした。
ディオンのなかに同い年の小さなクラウディオがいたのです。
突然訪れたディオンに領主さまたちは戸惑いました。
見た目は亡くなった息子にうり二つ。けれど、クラウディオが亡くなってからの月日を考えると、お二人はディオンの年齢が合わないことをいぶかしく思われました。
もしもクラウディオが子どもを残していったとしたら、少なくとも九歳にはなっているはず。
ディオンはどう見ても、その年には届かないように思えました。
けれど、ジオが持たせた箱を渡すとお二人は顔を見合わせました。
そこには、クラウディオの名前の刻まれた銀の指輪が入っていたのです。
領主さまはジオを探して連れてくるよう家来に申しつけましたが、森のどこにもジオとディオンが暮らした家は見つかりませんでした。
ディオンは領主の家に住まうことを許されました。
間もなくディオンは領地と同盟関係にある隣国の学舎に出されることになりました。
ブラントの領地には小さいながら銀や金、鉄を産出する鉱山があるのです。ディオンには次の領主……とはいかなくとも担い手として学ぶことがたくさんあったのです。
それに、奥方さまがディオンが館に昔から仕えるものたちの名前を教えなくても呼ぶことや、どこに何があるのかすべてを承知していることを気味悪く思われたのです。
ディオンからすれば、小さなクラウディオが知っていることを口にしただけなのですが。
奥方さまはディオンをクラウディオの息子というよりは、魔物が亡き息子の姿を借りてやってきたように感じられたのです。
小さなクラウディオは母親に受け入れられないことを悲しく思い、ディオンに涙を流させました。ディオンもまた、自分が何者なのか分からずに泣きました。
ディオンはずっとジオから、あなたはさるお方から預かっているのだと言い聞かされてきました。クラウディオが父母と呼ぶ人たちが親ではないというのならば、自分は誰の子で誰が母なのか。
ディオンはジオに会いたいと切に願いましたが、それはかなわないまま、学舎へと旅だっていきました。
やがて月日が流れました。
ディオンは同じ夢を見るようになっていました。
自分が育った森のなかにいる夢です。
森の奥に大樹があります。そこに髪の長いエルフがいるのです。いつも後ろ姿です。射干玉の黒髪は背中をおおい、足下まで届くようです。絹でしょうか。軽やかな布を何枚も重ねたふわりとした衣を着ています。雛菊の花冠を頭に乗せています。とがった耳の先が見えます。
ディオンはエルフに声をかけたいのです。けれど、声は出ません。そばに行きたいのです。けれど足は動きません。
その夢を見ると、胸があたたかくなるのと同時にしめつけられるほど苦しくもなるのです。
ディオンは十七歳のりっぱな青年になっていました。
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