書籍発売記念SS「これからのこと」

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 アダムに申し訳ないような、ほっとしような心地でメルヴィはそっと息を吐く。 (だってやっぱり、この家で、そういうのは恥ずかしいもの)  なにしろ隣人たちのなかには、子どものころから見ているモノがたくさんいる。あちらは長寿で、メルヴィの幼少期を知っているのだ。  精霊たちに「人間」のような下世話な気持ちはないだろうけれど、これはメルヴィの気持ちの問題。知人に見られているような感覚になって、とにかく気恥ずかしいのである。  嫌なわけではない、と思う。  だからもうすこしだけ待っていてほしいというのは、我儘だろうか。 「まあ、いいだろう。話すべきことはたくさんある」 「話すべきこと、ですか?」 「この家の所有権を含め、今後はどこに住むのかといったことだ。今、俺が暮らしている家は、三人で暮らすには手狭だろうからな」 「三人で」 「住まいを分ける気はない」  アダムとケイトリンと自分。  共に暮らす家。  なんて素敵な響きだろう。  これからのことを考えると胸の奥があたたかくなって、メルヴィの顔に笑みが浮かんだ。
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