52人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
アダムに申し訳ないような、ほっとしような心地でメルヴィはそっと息を吐く。
(だってやっぱり、この家で、そういうのは恥ずかしいもの)
なにしろ隣人たちのなかには、子どものころから見ているモノがたくさんいる。あちらは長寿で、メルヴィの幼少期を知っているのだ。
精霊たちに「人間」のような下世話な気持ちはないだろうけれど、これはメルヴィの気持ちの問題。知人に見られているような感覚になって、とにかく気恥ずかしいのである。
嫌なわけではない、と思う。
だからもうすこしだけ待っていてほしいというのは、我儘だろうか。
「まあ、いいだろう。話すべきことはたくさんある」
「話すべきこと、ですか?」
「この家の所有権を含め、今後はどこに住むのかといったことだ。今、俺が暮らしている家は、三人で暮らすには手狭だろうからな」
「三人で」
「住まいを分ける気はない」
アダムとケイトリンと自分。
共に暮らす家。
なんて素敵な響きだろう。
これからのことを考えると胸の奥があたたかくなって、メルヴィの顔に笑みが浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!