01 緑の屋根の家

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「はじめまして。コルト・パーマーからの依頼で参りました。メルヴィと申します」 「ああ」  アダムは、ひどく不愛想な男だった。  暗めのアッシュブロンドと冷ややかな灰青の瞳。頬に小さな傷がいくつもあり、分厚い唇は不機嫌そうに引き結ばれている。盛り上がった筋肉で肩が張り、メルヴィの細い身体の倍はありそうな体躯だ。 「使用人の方はいらっしゃらないのですか?」 「執事は使いに。料理人は町から通いの者が。貴女には日常の細々としたことを頼みたい」 「承知しました」 「ただ、その、事前に言っておくが、無理をすることはない」  淡々と話していた男は、そこで急に言い淀んだ。メルヴィは問う。 「お嬢さまのことですか?」 「……言って聞かせてはいるのだが」  この家には女の子がいる。名をケイトリン。七歳だ。少女はアダムの実子ではなく、亡くなった軍の友人の子を引き取ったらしい。  妻に先立たれている友人には身寄りがなく、良家の出だった妻の両親は、軍人の婿を煙たがっていたところがあり、残された孫への態度も褒められたものではなかったという。  そのせいなのか、ひどく乱暴で癇癪持ちらしく、辞めていったメイドたちは少女の態度に辟易したのだとか。メルヴィは、ナニーの役も乞われている。 「伺っております。お任せください、なんて大きなことは言えませんが、精一杯つとめさせていただきます」 「まずは、引き合わせよう」  そう言ってアダムは踵を返す。足を怪我したというわりには、危なげない歩行で進んでいく。  玄関ホールを中心に左右に分かれた邸内。右側はキッチンなどの水場が並んでおり、左側が住居スペース。一番手前の部屋、開かれたままの二枚扉をくぐると、そこはリビングルーム。暖炉が燃えているが、室内の温度は思っていたよりも低い。見ると、外へ出るための引戸が足の幅ほど開いており、風が吹き込んでいた。 「すまない。ケイトリンの仕業だ。なんでも、開けておかないと入ってこられない、と言って、気づくとあちこち勝手に開けてしまう」  アダムが引戸に手をかけて閉じようとすると、一続きとなった隣の部屋から甲高い声が響いた。
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