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「はじめまして。コルト・パーマーからの依頼で参りました。メルヴィと申します」
「ああ」
アダムは、ひどく不愛想な男だった。
暗めのアッシュブロンドと冷ややかな灰青の瞳。頬に小さな傷がいくつもあり、分厚い唇は不機嫌そうに引き結ばれている。盛り上がった筋肉で肩が張り、メルヴィの細い身体の倍はありそうな体躯だ。
「使用人の方はいらっしゃらないのですか?」
「執事は使いに。料理人は町から通いの者が。貴女には日常の細々としたことを頼みたい」
「承知しました」
「ただ、その、事前に言っておくが、無理をすることはない」
淡々と話していた男は、そこで急に言い淀んだ。メルヴィは問う。
「お嬢さまのことですか?」
「……言って聞かせてはいるのだが」
この家には女の子がいる。名をケイトリン。七歳だ。少女はアダムの実子ではなく、亡くなった軍の友人の子を引き取ったらしい。
妻に先立たれている友人には身寄りがなく、良家の出だった妻の両親は、軍人の婿を煙たがっていたところがあり、残された孫への態度も褒められたものではなかったという。
そのせいなのか、ひどく乱暴で癇癪持ちらしく、辞めていったメイドたちは少女の態度に辟易したのだとか。メルヴィは、ナニーの役も乞われている。
「伺っております。お任せください、なんて大きなことは言えませんが、精一杯つとめさせていただきます」
「まずは、引き合わせよう」
そう言ってアダムは踵を返す。足を怪我したというわりには、危なげない歩行で進んでいく。
玄関ホールを中心に左右に分かれた邸内。右側はキッチンなどの水場が並んでおり、左側が住居スペース。一番手前の部屋、開かれたままの二枚扉をくぐると、そこはリビングルーム。暖炉が燃えているが、室内の温度は思っていたよりも低い。見ると、外へ出るための引戸が足の幅ほど開いており、風が吹き込んでいた。
「すまない。ケイトリンの仕業だ。なんでも、開けておかないと入ってこられない、と言って、気づくとあちこち勝手に開けてしまう」
アダムが引戸に手をかけて閉じようとすると、一続きとなった隣の部屋から甲高い声が響いた。
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