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田舎だな。
率直に感じたのはそれだ。
コルトは大陸の南西都市の出身であり北部に縁はなかった。両親どちらかの知人がこちらに住んでいるらしく、ある噂を聞いてコルトを送り込んだらしい。
噂とはすなわち、ちょっと変わった信仰があること。
このセーデルホルムは、妖精や精霊、魔術といった古めかしいものを未だ信じている場所。
そんな町なら、悪魔祓いだって可能ではないかと考えたのだろう。短絡的な彼ららしい思考回路だ。
ほんの少しの期間だけよと母は言ったけれど、彼女の内心などコルトにはお見通しである。
ああ、ようやくこの悪魔の子から離れられるわ。
あの子たちに悪い影響を与える前で本当によかった。
母の『声』を、コルトの耳は拾う。自分ではなく、まだ幼い弟と妹の心配ばかりしている心の声を。
その隣でぎこちなく笑んでいる父も同様だ。彼の心配は親族への説明に集中している。
あの気味の悪い長男、『取り替え子』と噂された子どもを、正しい場所へ帰すという名目でもって教会送りできることに心の底から安堵し、弟を正式な後継者としてお披露目する算段を巡らせていることが伝わってきた。
だが、コルトにはもうどうでもいいことなのだ。
教会のシスターたちは、自分にひどく同情的だということも知れる。
誰もかれも、気の毒に、可哀想にと『心』が言う。
両親とは違って表情と内心が一致しているところは正直でよいと思ったが、憐れまれていることに対しては、じくじくと胸が痛む気がしたのは不思議だった。
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