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コルトが自身の特異性を正確に理解したのは、五歳の頃だっただろうか。
他の人間は己のように、他者の考えていることが聞こえてはこないのだということ。
そして、心の声が聞こえることは理解されがたいことであり、血を分けた親であろうと、忌むべき存在になりうるのだということがわかると、コルトはそれらを上手く利用して立ち回ることを覚えた。
母が大切にしていた宝飾品が紛失した際、それを盗んだのが使用人であることを突き止めてみせた。
行儀見習いとして入っていた娘の家は、それが原因となって町を離れたというが、コルトは正しいことをしたと思っていたし、使用人の雇用を見直すキッカケにもなったはずだ。世間体を気にする両親は勇んで粛清をおこなったし、この行動は家に貢献したといえるだろう。
小さな不正。
ほんの些細な嘘や誤魔化しすら見つけ出して問い詰める子どもに、使用人らは次第に恐怖を覚えるようになっていったが、間違っているとは思えなかった。
長く勤める祖父のような執事のワディムはコルトを褒めてくれたし、庇ってもくれた。
だから、我が家で起こった横領事件の犯人がワディムだとされたときには、真実を訴えた。
それを指示し、すべての罪をなすりつけた真犯人が父であることを本人に突きつけたが、彼はそれを否定し、当然ながら真実は闇に葬られた。
司法の場で訴えたところで、子どもの言葉など真剣に受け取ってはもらえない。
なにしろ物的証拠はすべてワディムの犯行であると示しており、無実を訴えるコルトの根拠は「父親が心の中でそう言っていた」という非現実なもの。父は否定し、執事は自分がやったと言う状況では、決定は覆らない。
収監されたワディムは、面会に訪れた八歳のコルトに微笑みながら、くちを開いた。
「坊ちゃまは正義感の強い御方ですね。爺は、貴方さまを誇りに思います」
そう言いながら、コルトの耳は別の声を拾う。
ですが、嘘や隠し事を白日の下に晒すことが絶対に正しいというわけではないことを、覚えておいてくださいませ。
旦那さまがなさっていることを覆すことも、反抗することも出来なかった、不甲斐ない、心の弱い私をお許しください。
良き理解者を得て、正しき道を歩まれますよう、祈っております。
ただ黙って、まっすぐに見つめてきた老人は、コルトの異能を察していたのだろう。
本当のことを明らかにすることが「正しくない」だなんて意味がわからなくて、結局、返事はできなかった。
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