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寄宿学校への入学手続きが取られたのは、横領事件のすぐ後だ。
コルトのほうも、不正の声に溢れる邸が息苦しく、渡りに船だったともいえる。ワディムが内心で告げてきた「良き理解者」とはすなわち、外の世界のことだろうとも思った。
親の庇護下にいるだけが世界ではない。
学校という場所は、コルトにとって「正しいことが実行される場所」だと、そのときは信じていた。
しかし、やはりそこは綺麗な世界ではなかった。
競争と嫉妬と猜疑心とみだらな欲望。
指導者であるべき教師同士での争いや足の引っ張りあいなど、ここでも多くの不正を目にし、それらを正そうとしたコルトは、正しいが故に糾弾された。
秘め事を暴いていく姿を皆が恐れ、保身に走った教師らは両親に連絡を取り、わずか二年でコルトは学校を辞めることとなる。
そして「静養させる」という名目でもって、遠く離れたセーデルホルムの教会に預けられたのが、冬の初め。南西に住んでいたコルトは、空気の冷たさに震えたものだが、こんなものは序の口らしい。
教会にはなんらかの事情で預けられた子どもたちが多かったが、その中にあって十歳のコルトは最年長である。必然的に子どもたちの面倒を見る役割となり、彼らの心を読む日々を淡々と送った。
傍目には問題児に見える少年の真意に気づいたり、心に傷を負ったのか発声のおぼつかない少女の気持ちを察するなど、コルトにとっては造作もないことだった。
そこにたいした意味などない。言わないから代弁しただけだ。
だから、シスターに異能を指摘されたときも、特に何も思わなかった。
おかしな能力を持つ自分は、また別の場所に送られるのだろうと達観する気持ちのほうが勝っていた。
しかし、告げられたのは意外な内容だったのである。
「ねえ、魔女の家へ行ってみない?」
「そんなお伽噺の家があるのですか?」
「絵本に出てくるような魔女とは違うかもしれないわね。セーデルホルムの魔女は、精霊の仲介者のようなものかしら。伝統に造詣が深い、頭の良い御方よ」
それにね――と、付け加えるように囁かれた言葉は、コルトを驚かせる。
「そこには、あなたと同じちからを持った女の子がいるの。きっと、仲良くなれるわ」
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