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キッチンから繋がる扉から外へ出ると、灌木が裏庭に向けて伸びている。メルヴィの腰ほどの高さだが、子どもにとっては背丈にも相当する。こういった茂みには、なにかが潜んでいることも少なくない。
様子を見ながら歩いてると、小さな声が聞こえてきた。声の主はひとりしかいないだろう。
「ケイシー、どうかしたの?」
「なんでもないわ、向こうへ行って」
いつから外にいたのか。寒さに頬を赤く染めたケイトリンは、まるで背中に何かを隠すような素振りで、こちらを睨んでいる。
悪い気配はしない。むしろ場の空気は安定している。
近づくメルヴィに対し、後ずさるケイトリン。
少女の背中から覗いた緑色は灌木の葉ではなく、動物の毛並みのように見えた。
「ケイシー、それは」
「ダメ! 化け物なんかじゃないの。ごめんなさいごめんなさい、おねがい殺さないで」
立ち上がると、灌木と同じぐらいの背か。小柄なケイトリンより高いのではないかというそれは、深い緑色をした長い体毛に覆われており、ぐるりと巻かれた縄のようなしっぽを揺らして佇んでいる。
メルヴィから逃がそうとしているのか、動物の身体を押しているケイトリンに声をかけた。
「私にも紹介してくれないかしら。あなたのお友達」
「石を投げない?」
「そんなひどいことしないわ」
「棒で叩いたり、水をかけたり、大きな声で追い払おうとしたり――」
「しないわ。大丈夫」
言いながら近づいて、ケイトリンの前に膝をつく。怯えた顔の少女を安心させるように微笑んで、次に緑色の動物に視線を移した。
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