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「君に一目惚れしたんだ。どうか僕に君の時間をくれないか」
「無理です」
大通りを歩いていると、突然見知らぬイケメンに告白されました。
これが世に聞く「デート商法」というやつですね! 垢抜けない騙されやすそうな人間だと見られていることが癪ですが、確かにその通りなので仕方ありません。
「せめてお茶だけでも」
「どうぞ他を当たってください」
ほら、来ました!
イケメンや美女につられてのこのこ喫茶店などに入ると、粗悪な壷やら絵画やらを高額で購入させられるのだとか。店には仲間が待機している場合だってあるそうですよ。いやあ、怖いです。
「怪しいのはわかってる。でも、今声をかけなかったら一生後悔すると思って」
「ごめんなさい、用事がありますので」
付いていったら騙されるとわかっていても、目の前でしょんぼりされると胸が痛みます。人情に訴えてくるなんて卑怯です。
私が付いていかないと決めたおかげで、あなたは犯罪者にならずに済んだのです。感謝して欲しいくらいです。あと、さっさと足を洗うことをお勧めします。
「失礼します」
「あ、ちょっと!」
相手の隙をついて歩き出せば、後ろから何かを叫ぶ声が聞こえました。ばたばたとこちらを追いかけてくる足音も。
まだいろいろ言ってきますか! もしかしたら詐欺グループには、1日あたりのノルマがあるのかもしれません。
「そりゃ!」
人混みに紛れて走りだせば、イケメンの声はあっという間に聞こえなくなりました。
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