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多感な少年とは自分のことを云っているに違いなく、航は少年ではあるけれど、自分で自分を多感だなんて普通は云わない。
実那都が笑ったのを見て、航は警告するように目を細めた。
「まずは一年後だな。おれも前を向く最大の理由ができた」
「なんのこと?」
「一年後、いま笑ったことを実那都に後悔させてやる」
*
その一年後、ふたりとも無事に青南大学に合格して、三月の末、実那都は独り飛行機に乗り、ちょっとぽかぽかして見える午後、東京にまさに降り立った。
東京に来たのは受験のときに一度、航とその親友、日高良哉と一緒に来たときだけだ。
独りでは今日がはじめてで、勝手がうろ覚えのまま、手荷物受取の場所で自分のキャリーケースを見つけてほっとしつつ、外に出たとたん、そのキャリーケースが斜め後ろから奪われた。
ハッと焦って振り向いた刹那、実那都の顔が驚きに満ちたのはつかの間、笑顔に変わった。
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