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「やっと来たな」
航は開口一番そう云って、くしゃっと弾けた笑みが顔いっぱいに広がった。
家を出たときからたったいままで気分は迷子だったけれど、航のその顔を見ただけで実那都はほっとする。
「うん。やっと来た」
航は実那都の返事に上々だといった気配でにやりとした。
「じゃ、行こうぜ」
航はキャリーケースを右手に持ち替えると、左手で実那都の右手をつかんだ。
実那都がうなずくと、手を引いて先導した。
実那都が東京に出てきたのは航より三日遅れただけで、ふたりの間の時間的な意味で『やっと』と云うには大げさすぎる。
その言葉に込められているのは、ここからが始まりだという、気持ち的な期待だ。
『やっと』にたどり着くまでは大事な準備期間みたいなもので、きっと、育んできたこと、がんばってきたことを称える言葉でもあるのだ。
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