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エピソード12 作戦を考えてみた件
レア処遇事件が終了した後、若干空腹を感じていることもあり、僕らは食べ物を探すことにした。
そして、偶然見つけた林檎の木から林檎をもぎ取ってみんなで食べようとしたところ、夢世界の場面が変わってしまい、新しい場面は都会の街並みとなった。
驚いたのは、そこは自分が昔行ったことのある郊外の町だったこと。
車が行き交っていて、信号も作動している。
しかしよく見ると、車は無人の状態で動いており、自分達以外に人がいる気配はなかった。
とりあえずどこかで座って話そうと、近場に全国チェーンのファミリーレストランの看板が見えたため入店。
無人のレジに「四名です」と告げ、窓際の席に腰を落ち着ける。
お金が無ければ払う相手もいない。
気付けば志熊が四人分の飲み物をドリンクバーから注いで並べていた。
全員コーラである。
こらこら、レアは炭酸が飲めないと考えなかったのか。
一息付ける状態になったところで、夢葉がニコニコと笑いながらレアに尋ねた。
「それでレアちゃん、どうすれば黒幕に会えるのかな?」
「あと……一人……仲間……見つける……それが……条件」
「仲間? それってまだ他に共有夢を見ている人がいるってこと?」
「そう」
「それは誰なのか分かる?」
「知らない……記憶……だけ」
「レアも夢葉と同じで条件だけ記憶を持つのか」
「みたいだね。レアちゃん、他に知っていることはない?」
大きい帽子を揺らしながら否定するレア。
つまり、レアの知っていることは黒幕を登場させる条件だけであり、それ以外は自分が夢世界の住人であることしか記憶にないということだ。
それは記憶障害なのか、意図的に消されているのか、それとも本当に持っていないのか。
「ドワーフよ、貴殿の帽子の中はどうなっている」
「志熊くん、女の子にドワーフって呼ぶのは失礼だよ」
「なぬ!? 貴様雌であったか」
「呼び方統一しようよ……」
それよりも、レアが言ったことが確かであれば、そろそろ黒幕にどう対抗するか考えないといけない。
それを伝えると、夢葉は大きくうなずいた。
「もう一人の仲間を見つけたら、黒幕が出てきちゃうもんね」
黒幕登場の条件はあと一人で満たされる。
しかし、黒幕を登場させることが目的ではない。
何らかの手段を用いて黒幕の野望を打ち砕かなければならない。
そっちの方が重要だ。
「だが、オレ達の波長は奴に筒抜けなのだろう?」
志熊が最もな意見を言う。
夢世界はほとんど黒幕の手中にある。
少なくとも今こうして話し合いをしていることは間違いなく聞かれているだろう。
そうでなければ黒幕の出現条件、なんてものは存在しないからだ。
しかし流石に考えていることまでは伝わらないだろう、というのが僕の見解。
何人もの思考を一遍に読み取ることは人間には不可能に近いはず。
夢は言うなれば監視カメラと盗聴器があらゆる角度から付けられているようなもの。
その上、敵は自在に空間を操る能力まで存在している。
地の利も能力の利もすべてが上。
そんな世界と敵に立ち向かう手段なんて――。
「いや、一つ方法がある!」
閃光が走ったかのように閃きが頭を過ぎり、僕はつい大声を上げる。
その声に導かれ、どんよりとした空気は一斉に換気されたかのように思われた。
「本当にあるの?」
「うん、むしろこれしかないかも!」
「空間法則無視の相手と聞くが、いけるのか?」
「大丈夫、問題なし!」
視線だけで訴えかけるレアに、僕は頷きで返す。
「みんな机の下に手を出してほしい。手のひらにそのことを伝えるから。あと念のため、もう片方の手で書いてる文字がバレないように隠してほしい」
その言葉に従い、三人が机の下で手の平を差し出してくれる。
まずは志熊にそのキーワードを指で書き記す。
その文字の少なさに星矢は最初首を傾げたが、もう一度書くとちゃんと伝わったのか、「正気か……?」と小さく言葉を漏らした。
次に夢葉に伝える。
席が向かい側にあるので、頑張って手を伸ばす。
左手で夢葉の手を軽く掴んで、その手の平に言葉を伝える。
志熊とは違う、その手の柔らかさに一瞬鼓動を揺らしたが、すぐに冷静になる。
今は煩悩に揺さぶられている場合じゃない。
「え、二文字? しかもこれって……」
「しっ!」
キーワードを口に出しかけた夢葉の口を、身を乗り出して慌てて両手で塞ぐ。
ここで黒幕に知られてしまえば本当に打つ手がなくなる。
そのことが伝わったのか、むぐむぐと夢葉が頷くので解放した。
最後にレアの手のひらに書き記す。
彼女は一回ですぐ把握し「なるほど……」と呟いた。
「これが僕の考えた唯一の作戦。正面突破ができないなら、裏を突けってことよ!」
僕は立ち上がり、自信満々に言った。
あまりに拍子抜けなアイデアであるけれど、核心をついたアイデア。
頭の中には、この後浴びせられる拍手喝采と称賛の声がすでに響いている。
が、ファミレスに反響した僕の声に続く声は存在しなかったのだった。
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