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「や、まって、」
「おい。手止めんな」
「でも、でも、触らないって約束……!」
「下は触んないから、ここだけ触らせて」
「ふ、あ」
優しい指先が胸の先をかすめて、思わず力の抜けた声を上げてしまう。
そっと揉みしだかれて、頭の中があっという間に霞んでいく。青瀬君に手を引き寄せられて、何の抵抗も示せないまま、またさっきと同じ動きを繰り返した。
そうするのが当然だったみたいに、私たちはいつの間にかキスをしていた。重ねた唇の隙間からふたつ分の乱れた息が漏れ出していく。
刺激が身体のあちこちに及んでいて、どこに集中していいのかが分からず、意識が簡単に手元から遠ざかりそうになった。
「もっと早く、」
そんな余裕をなくしたように声に背中を押されて、濡れた指先と心音が速さを増していく。
互いの舌が形を無くすくらい絡み合って、火傷しそうな眼差しと視線が交わって、繋がっているところが混線して、もう、なんだか、全てがぐちゃぐちゃに溶けてしまいそうだ。
「あー、やばい。ごめん、白花さん、」
「へ……」
「出そう」
「え、わっ、」
握り込んでいたものがびくりと脈打って、驚いて咄嗟に手を放そうとした時、私の両手を青瀬君が上からぎゅっと強く握り込んだ。
「っ、は……、」
押し殺したような吐息と共に溢れ出してきた白い液体が、青瀬君の手もろとも、私の両手をどろりと濡らす。
握り込まれているせいで逃げることも叶わず、温かなそれが私たちの手をゆっくり伝っていくのを、茫然と見つめるしかなかった。
とても現実とは思えない光景に卒倒しそうになりながら、どうしてだか私は、ほとんど記憶にないはずの青瀬君との始めての日の事が、紛れもなく現実だったのだと今更ながらに自覚した。
たぶん、記憶が覚えていなくても私の身体が覚えていたんだと思う。
あの日、確かにこれが、私のなかに入っていたんだって事を。
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