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向かい合って立つ2人の少年の美貌と、均整のとれたしなやかなカラダは、鏡で映したように良く似ている。
しかし、赤みがかった明るいトビ色の瞳の千影に対して、陽向のそれは、神秘的な紫水晶のシズクをうるませた漆黒の闇のようだ。
それに、高校2年でドロップアウトして以来、実質ニートのヒキコモリ生活を続けている千影の透けるような真っ白い地肌に比べて、よく日に焼けた陽向の顔は、清らかで健康的な伽羅色に染まっている。
じゃっかん17才で家業の神社の宮司をつとめる陽向は、地元の北関東のみならず、全国各地の地鎮祭に呼ばれて忙しく飛びまわることが多い。
地鎮祭といっても、いわゆる新築のお祝い行事のタグイとはちょっとオモムキが違う。
『大島ナニガシ』とかいうサイトで検索されるような因縁ツキの事故物件やら、恩讐うずまく土地家屋の御霊を鎮める、正真正銘の神事なんである。
なんなら地図にも載らない山奥の古い旧村なんぞに、重いリュックをかつぎながら道なき道を分け入って赴くなんてこともシバシバなので、ともに体格は同じでも、やや華奢な印象の千影に比べて、いつでもスッと姿勢の伸びた陽向のほうは、鋭く研ぎこんだ刀剣のようなムダのない筋肉質が衣服ごしにもうかがえる。
うりふたつの顔と体を持つ一卵性双生児にも関わらず、その名のとおり陰と陽のごとくに相反する個性をあからさまにする2人は、性格もまるで違う。
陽向は、パリッと糊のきいた狩衣に差袴姿という正しい神主の装束を、凛々しく着こんでいた。
千影は、そんな双子の弟を、ヤッカミまじりに横目でニラミつけた。
「ったくもう……場違いだっつーの、そんなカッコ!」
と、ついさっきのセリフを再び吐き捨てると、端正な白い手をヒラリと頭の上にかかげるなり、長い指を「パチン」と軽く打ち鳴らす。
とたんに、双子の衣服は、洗練された墨色のドレスシャツに、仕立てのいい真っ白いスーツ、ネクタイ姿へ早変わりした。
同時に、ザワザワとしたアイマイな喧騒だけがBGMだった大広間に、突如としてフルオーケストラの音楽が鳴り響きだした。
ハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』……豪華絢爛で、ほのかに退廃的な『ワルツ』。
壮麗で幻想的なメロディーに、自然と心が妖しく騒ぎだす。
ポカンと目を大きくした陽向がホールの奥を見れば、いつの間にやら、客と同じようなウサギの仮面をかぶった立派な楽団がそこに現れて、演奏をしている。
千影は、陽向のその反応に満足すると、得意になって、ほっそりしたアゴからノドへの綺麗にくびれたラインを見せつけるように、ツンと顔を上に向けてみせた。
それから、トビ色の大きな瞳を、めくるめく冒険への無邪気な好奇心でウットリとキラめかせながら、
「夢の世界をエスコートするのは、オマエじゃなくて、オレの領分。さあ行こう、陽向」
と、双子の弟の手をつかみ寄せた。
陽向は、あまり表情筋は発達していない涼やかな面立ちを、観念したようにフッと柔らかく和ませながら、双子の兄のすべらかな手に導かれるまま走りだす。
真っ白くツヤめく革靴をはずませて、軽やかに足音を響かせながら、2人は、不思議な舞踏会に妖しく笑いさざめく華やかなウサギたちの間を駆け抜けた。
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