第二幕

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宇佐美(うさみ) 圭斗(けいと)は、都下の自然に囲まれた、全寮制の私立男子高校に通う3年生だ。 小学部から高等部までの一貫教育校として、公人を多く輩出(はいしゅつ)してきた歴史の長い有名校ではある。 1週間前の夜、圭斗(けいと)は、小・中・高等部の3つの敷地にはさまれた広大な緑地公園の一角で、意識不明の状態で発見された。 公園には、情操教育(じょうそうきょういく)を兼ねて小学生たちが飼育を任されているウサギの小屋があった。 その小屋の前のベンチに、制服姿でアオムケに横たわっているところを巡回中の警備員が見つけて、最寄りの病院に救急車で搬送される事態となったのだ。 入学したときから同室だった同級生が、2年生になってすぐ退学してしまって以来、ルームメイトが誰もいなかったうえに、なまじ品行方正で物静かな優等生だったから、圭斗(けいと)が門限を過ぎても寮にいないことに、他の寮生はまるで気付けなかった。 さらに不幸なことに、その前夜に付近一帯を激しい雷雨がおそった影響で、公園内に設置されていた防犯カメラの多くが故障したままだった。 そのため、巡回の警備員が通りがかるまで、誰も圭斗(けいと)の居場所を知らず、心配もしていなかったのである。 診療にあたった医師は、圭斗(けいと)華奢(きゃしゃ)な白い首のまわりをグルリと一周する幅0.5センチあまりの鎖状(くさりじょう)圧迫痕(あっぱくこん)をすぐに見つけて、警察に通報した。 頭部にも軽い打撲(だぼく)のあとがあったが、こちらは、圭斗(けいと)がみずからの不注意で転んで、どこかに頭をぶつけた可能性も否めない。 でも、首のアザは、なにものかが圭斗(けいと)の首を、とても細い(くさり)のようなもので絞めつけたとしか考えらえなかった。 やがて宇佐美(うさみ) 圭斗(けいと)の保護者に連絡をとる段になって、さらに当局に緊張感が走った。 圭斗(けいと)の父親は、地裁の裁判長をつとめる人物だった。 ほんの1か月ほど前、宇佐美裁判長は、悪名高い暴力団組織の会長に極刑の判決を宣告した。 そのとき、被告は、「アンタ、今日という日を一生()やむことになるぜ」と、裁判長を半笑いでニラミつけながら、脅迫まがいの捨てゼリフを吐いた。 テレビやネットのニュースでも、ずいぶん話題になったものだ。
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