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 僕の恋人三田 九朗(みた くろう)は熊のように大きな身体をしていて少し垂れた目が可愛くて、居るだけで周りを和ませてしまう。なにかで揉めていても九朗が来たらいつの間にかみんな笑顔になってる。これって一種の才能だと思うんだ。僕も一緒に居ていつも幸せな気持ちになれるんだよ。  九朗はそれだけじゃなくて、勉強だってスポーツだって何だってできる。誰からも好かれていて、僕も勿論九朗の事が大好き。でも僕は九朗が何でもできるから好きなんじゃない。苦手な事だって何だって手を抜かないで人一倍努力する頑張り屋さんなところが好きなんだ。  だから、たとえ何もできなかったとしても僕の気持ちは変わらない。結果じゃなく頑張り屋さんなところが愛おしくて、好きだって思うんだ。  そんな大好きな九朗だけど、僕にはひとつだけ不満があるんだ。それはクリスマスを僕と一緒に過ごしてくれない事――。恋人だったら普通は一緒に過ごすものでしょう? 『恋人たちのクリスマス』っていうじゃないか。だけど僕たちは恋人になる前もなってからもいちども一緒に過ごした事はないんだ。  ただの友だちだったら寂しいけどそんなもんだよなって思えた。だけど僕たちは恋人なんだし、すごく不満に思ってしまうんだ。どうして一緒に過ごしてくれないのか訊ねても、「家族と過ごす事に決まっているから……ゴメン」って毎年同じ返事しかくれない。だから僕たちのクリスマスは26日。世間とは違っていてもクリスマスとして一緒に過ごすんだから、気づかないフリをするべきなのかな?  でも――。  ――本当はね、僕が寂しく思うのも不満に思うのも別の事なんだ。勿論一緒に過ごせない事もだけど、それよりも九朗が「家族と過ごす事に決まっているんだ」って言う時、目が泳ぐんだ。それは九朗が嘘をついている証拠で。  九朗が僕の事を裏切っているとは思わないけど、すごくすごく寂しくて悲しくて、胸が痛いんだ。だから僕はサンタさんに手紙を書く事にしたんだ。20歳(ハタチ)を過ぎてサンタさんへの手紙なんておかしいしそんなの気休めだって分かるけど、でもそんなものに縋ってしまうくらい僕は何かをせずにはいられなかったんだ。 『サンタさんへ   もう子どもじゃない僕なんかが手紙を書いてごめんなさい。 実はサンタさんにお願いがあります。 九朗が嘘をつかないでいられるようにしてあげてください。九朗が隠している事、隠さなくちゃいけない事、僕は何を訊いても傷つきません。九朗は本当に優しくて、僕なんかには勿体ない人なんです。だからもうこれ以上九朗が辛そうにしているのを見ている事ができません。 サンタさんなら僕が言っている事がどういう事なのか分かると思います。もしも叶えていただけるなら、僕は何だってします。九朗と別れるとかそういうのは無理だけど、他の事なら本当に何だってするつもりです。だからどうかどうかお願いします。 最後になりましたが、サンタさんの健康と幸せをお祈りしています。 みつき』  翌朝、机に置いてあったはずのサンタさんへの手紙はなくなっていた。 *****  ――だけど今年も九朗とクリスマスを過ごす事はできなくて、九朗からも相変わらず「ゴメン」ってだけだった。  ワンルームにひとりでわんわん泣いて、九朗の気持ちを思って泣いて、結局九朗の為に何もできない自分の無力さを嘆いて泣いて――――ないて、泣き疲れて眠ってしまった。
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