1.池光

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1.池光

 仕事帰り、駅に向かっていたら女性に呼び止められ、小さな紙袋を差し出された。 「これ貰い物なんだけど、良かったらどうぞ。紅茶好きだって聞いたから。」  旧知の仲のように話しかけてくる彼女に 「私にですか?」 と確認する。本当は「どなたですか?」と聞きたかったが、経験上、その質問が功を奏したことはないので控えた。 「うん。池光くんにあげる。」  俺の姓だ。相手は俺を知っている。他部署の先輩だろうと当たりをつけて、 「ありがとうございます。でも、どなたかもっと喜ぶ方に差し上げてください。」 と頭を下げる。本当はそのまま背中を向けて歩き出したいが、職場の先輩ではあまり失礼な態度も取れない。 「え?どうして?」  どうして?逆にどうして、あなたから紅茶をもらわなくてはいけないんだ?と、少しイライラする。  あなたは俺を知っているかもしれないが、俺はあなたが誰だか分からない。そして、俺が紅茶好きというのは、俺は初耳だ。そんなガセネタを流しているのは一体誰なんだ。  八つ当たり気味に、どこの誰とも分からない情報提供者にイライラをぶつける。
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