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「これ、ダージリンのオータムナルだよ。」
「すみません、何か誤解があるようです。紅茶は普通に飲みますが、特に好きというわけではなくて。オータムナルの価値もよく分かりません。」
正直に言うと、目の前の彼女が驚いたあと、笑いだす。
「そうなの?」
「はい。」
「なーんだ。」
差し出されていた紙袋が下がるのを見て、
「失礼します。」
と会釈して背中を向ける。
「お腹空いたね。なんか食べに行こうか?」
少し大きめの声が追いかけてくる。俺はうんざりとした気持ちが顔に出ないよう、気を付けながら振り返る。
「すみません。」
それだけ言って、彼女を見る。
「あ、忙しい?予定あった?ごめん、ごめん。じゃまた次の機会に。」
苦笑する彼女に微笑んで会釈し、また背中を向ける。歩き出すと
「池光くん。」
と呼び止められて、今度こそうんざりした気持ちが顔に出てしまうのではないかと心配になりながら振り返る。
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