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「もしかして、怒ってる?」
「いえ、怒ってはいません。」
早く帰りたいだけです、とは、もちろん言わない。
「私、最近、池光くんのこと避けてたもんね。」
避けていたのか。知らなかった。でも、知らない人に、知らないうちに避けられていたのだから、知りようがない。
「だって、しょうがないでしょ?池光くん、うちの部署に書類回すとき、私にばかり声かけるから。周りの女の子がうるさくて。」
やはり他部署の先輩だったか。丁寧に対応しておいてよかった、とホッとする。
「ごめんね。」
「いえ、大丈夫です。お気遣いなく。」
頭を下げて、また背中を向ける。
「お詫びに今度奢るから。」
何のお詫びだろう。あぁ、避けていたことへのお詫びか。別にそのまま避けていてくれていいのだけれど。
そんなことを考えながら歩いているうちに、無視した格好になってしまっていることに気が付き、慌てて振り向くと、彼女が笑顔で手を振っていた。会釈して、また歩き出す。
駅に入り、ホームまで辿り着いたところで溜息をつく。
どの部署の、誰だったんだ。放っておいてもいいような気もするが、あの様子だと、また声をかけられる可能性がかなり高い。名前くらいは把握しておくべきかな、と考えて、もう一つ、溜息をつく。
仕方ない。明日、二葉さんに聞いてみよう。
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