走り出す呪いを解き放て

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 参考になりそうな終わり方をみつけたら持ってきたノートにメモしていった。空を見上げた、目を閉じた、大きく息を吸ったという動詞的な終わり方のほかに風が頬を撫でた、冷たい水が指先に触れたという触覚に訴えかけるような終わり方。  走り出す以外にもいろいろあるものだなあと感心しながらも共通しているのはちゃんと話が終わっていること。 「含みがないというか、ちゃんと物語を畳んでるよね。さすがプロ」 「えっ」 「ほら、走り出す、だとさその後に話が続きそうじゃない。例えば瑠美の新作だと、走り出して秀介のところで立ち止まって、返事をする」 「うん、沙織の話もそうだよね。愛しの魔王の元へ向かってもうひと展開できそう」  読み終わった本を書架に戻しながら小声で相談を続ける。もうひと展開できるってことはうまく話が終わってないってことなんだと思う。  あのファンタジーBLだって魔王の元に戻った勇者が再会のハグをして終わってもいい。 「走り出した後の続き、書いてみようか」 「……そうだね、いいオチがみつかるかも」  瑠美も同じ考えに至ったようで、文芸部の部室に戻った私たちはそれぞれ作業を始める。
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