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「最後まで聞いてないのか?」
最後?
「俺、言ったろ? 『あんたのことは、わりと気に入ってる』の後!」
「後?」
え?
「ちゃんと言った。小さく、だけど……『割合で言えば、すげぇ好き』って」
なんて返せばいいんだろう。
そんなの、聞こえてないって言えばいい?
だって、その時の宇佐美くんは本当に声が小さくて、『わりと気に入ってる』発言もようやく聞き取れる程度の小声だった。
しかも、その発言の後は口を手で覆って横を向いてしまったから、表情すら窺いづらい状態で。手のひらで隠した告白が私まで届く確率はほぼゼロじゃない?
バス停に向かう道すがらの出来事だったから、車の走行音も邪魔だったし。
「ありがと。『すげぇ好き』、ちゃんと届いたわよ。今」
「……っ……おっ、おせーんだよっ」
まぁ、でも、余計なことを言う必要はない。
「じゃあ、返事は?」
この、途端に大きな態度に変貌する後輩が、いざという時には照れまくって肝心の告白を失敗したことをつついてやるのは可哀想。
「知ってるでしょう? 私のこと、二年半も見てきたのなら」
可哀想だけど、たくさん怒鳴られたぶんの意地悪をしてやる程度には、私は性格が悪い。
あら? どうして無言? 宇佐美くんなら、こういう時は……。
「まだ、想ってる? 土岐先輩のこと」
あ……。
無言の理由が、わかった。宇佐美くんの声がまた小さくなった理由も。
「ううん……あ、違う……わからない」
「どっちだよ」
正直に言い直したことに、きつい言葉は返ってこなかった。
宇佐美くんの口から零れたのは、呆れたような呟き。そして、その唇は、拗ねたように少し尖ってる。宇佐美くんから彼の名前を出してきたのに。
「本当にわからないのよ。彼を好きでいた期間が長すぎて……」
「うん」
土岐奏人。——かーくん。十年も片想いしてた相手だから。もう気持ちの整理はついてると言い切れる気もするんだけど、それをはっきりと明言していいのか、自分でも判断がつかない。
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