4 花待つ、春のうた

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「ありがとう、宇佐美くん。素敵な卒業祝い、本当にありがとう」 「……っ。あんたなぁ、こういうのは、家に帰ってから調べるんだぞ。マジ、融通の利かない女だな。照れるだろうが」 「優しい思い出」 「いちいち言うな! 空気読め!」 「あははっ!」  優しい思い出。宇佐美くんが選んでくれた白いスイートピーの花言葉。  ブーケをくれた時に何か言いたげだったのは、この花言葉に関することだったのかな。聞いておけば良かった。  ——ずっと苦しかった。痛くて切なかった。ひかるしか、私にはいなかった。  でも、宇佐美くんが現れた。最初こそ、とんでもなく嫌な子だったけど、いつの間にか誰よりも〝私〟を理解してくれていた。  私を、好きになってくれた。  時間がかかったけど、私も同じ気持ちだと自覚できた。  こんなことがあるんだ。こんな旅立ちの日を迎えることができるんだ。  もしも叶うなら、真っ暗な泥の海で溺れてたあの頃の私に、このことを教えてやりたい。
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