いないって言ってなかった?(マオside)

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いないって言ってなかった?(マオside)

イルミネーションは綺麗だった。 今迄敢えて内向的に生きてたからラッキーなのかどうなのかイマイチわからないけど、ウチ、結構近くに有名テーマパークがある。 せっかくだからってそこのクリスマスイルミネーションを見せてくれようと思ったみたいで、玲はチケット買っててくれたらしい。 電車の中でスマホに送られてきたからびっくりしたな。 「そういう顔が見たいから黙ってたんだよ。」 って…いやマジ玲くんアナタね…。…好き。 「ありがとう。こういうのって、高いんでしょ?」 「これでもそこそこ稼いでる社会人なんでね。」 大人の経済力を垣間見た。 賑やかな曲に色とりどりのイルミネーション、たくさんの人、人、人達の笑顔。 ここにいる皆が幸せそうだ。 勿論、俺も幸せ。 綺麗な電飾に見蕩れていると、玲が手を繋いできた。 「なんか迷子になりそうで怖いからね、マオが。」 子供扱い。いや、確かに今は玲よりだいぶ子供だけど。 寒いのに大丈夫?と言いたくなる、どう見ても薄着っぽいコスプレの人達がいたり、賑やかな店がたくさん並んでたり。 外国みたいな街並みになってるエリアの綺麗な広い道を、恋人と手を繋いで歩けてる。 この間まで、この人生も早く終わらないかなあなんて思ってたのに、今はとても楽しい。 店に入って温かいココアを買って、美味しそうなピザを買い食いして、玲はホットワインを飲みながらニコニコしてる。 まるで昔に戻ったみたいだ。 雪深いあの村の寒い寒い夜に、暖炉の前でしゃべりながら2人でワインを飲んで体を温めた。 この世界でも、早く大人になりたいな…。 大きなツリーの下に着き、あまりの大きさに2人でぼんやり見上げていると、クイっと左手の袖を引かれた。 思わず振り返って見ると、4、5歳くらいの小さな男の子が俺の袖を引きながら見上げていた。 迷子だろうか。 俺を親と間違えて袖を掴んだのかな。 周囲を見回したが、この子を探している親らしき人はいない。まだこの子が居なくなった事に気づいてないのかも。 玲も気づいたので目配せをしてから、その子の前にしゃがんで目線を合わせる。 「どうしたの?お父さんとお母さんは?」 迷子になったというのに、男の子は動じる様子も無く、じっと俺を見ている。 黒い髪、凛々しげな大きな黒い瞳。 ごく普通の、それでもとても可愛らしい男の子だ。 思わぬ出来事に驚いて呆然って感じなんだろうか? …それにしても、落ち着き過ぎている。 「どうしたの?」 俺がもう一度、笑顔を作って更に話しかけた時、 「お兄ちゃん…」 と、その子が言った。 小さな唇から、しっかりとした発音。 言い方に妙な既視感を感じる。 「お兄ちゃん、よかった。元気なんだね。レイさんも一緒にいるんだね。よかった…よかった。」 「…へ?」 え?こんな子、親戚か近所に、いた? すごく懐かしい気持ちになるけど、こんな子知らない…。 俺が戸惑っていると、その子は妙に大人びた笑い方をして、言った。 「お兄ちゃん、エリンだよ。」 「エリン…?」 はっ、として隣の玲を見ると、彼もその男の子を凝視している。 そして、玲もしゃがみ込んだ。 「エリン…」 「しばらくね。 あの時は、本当にどうもありがとう。」 5歳児にはそぐわない、その話し方。 エリン。 その名は昔の俺とレオの、妹の名だ。
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