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再会の時を待ち望み (玲side)
幼い頃から15の頃迄、目覚めると泣いているのはよくある事だった。
昔の夢を見ると、最後には底知れぬ絶望感を繰り返し追体験する事になるから、何時も感情がぐちゃぐちゃになる。
あの過去世を終えた後、俺は4度転生した。
彼とはあの過去世以前にも、幾つもの生で出会い結ばれていた事も、あの世と言われる世界に行ってから知った。
だから次の生に賭けて転生を重ねた。縁のある魂は再び近しく生まれる確率が高い。
本来は記憶を消してから生まれてくる筈が、想いが強過ぎたのか 4、5歳になる頃には過去の事を思い出し 、彼を探した。
出会えばわかる筈だ。絶対に。
姿形が変わろうと、俺には恋人の魂がわかる、絶対に。
そんな自信があった。
しかし、その4度共恋人に会える事は無く、俺は孤独に生を終えた。
(何故、彼はいないんだ?)
俺達は魂で結ばれている筈なのに、何故。
彼に何かあったんだろうか。
あの過去世以降、転生を妨げる何かが。
転生を重ねる度、絶望が深くなっていく。それでも、彼を待つ事も追う事も、止められなかった。
だから、きっと次こそ。
俺はまた、捨てられない望みを抱きながらこの世界に降り立った。
5歳で覚醒し、過去世の全てを思い出した。
そしてそれから10年経った頃、意外な形で俺は恋人に再会できた。
今生での、歳の離れた兄が結婚し、子供が産まれたのだ。
兄と義姉が産院から赤ん坊を連れて家に帰って来た、運命の日。
見て直ぐにわかった。
俺の元に彼が戻ってきたんだと。
その時の 狂おしい程の歓喜を、どう例えれば良いのか。
以前のような顔立ちではない。髪の色だって違う。
でも、俺の魂が彼だと叫んでいるのだ。
彼こそがこの世界にただ一人の、俺の為の人だと。
この世に産まれ出て間もない甥っ子を、俺は初めてこの手に抱きしめた。
おくるみに包まれた、頼りない程に小さな…でも温かな命。
赤ん坊の匂いだ。
でも、でも彼だ。
(やっと…やっと、)
愛おしさが込み上げて、溢れる想いを抑える事が出来ない。
(…涙が出そうだ…。)
既に張った涙の膜を、誰にも悟られたくはなかった。
もう離すものか。
誰に何を言われようが、世の中がどうなろうが、俺が守るんだ。
「ずっと待っていたよ、この日を。」
小さな小さな声で、まだ目も開かない赤ん坊の彼に囁いた。
今日この瞬間から、ずっと君に尽くすから。
だから早く大きくなっておくれ…。
戻って来てさえくれたら、俺はもう何も要らない。
もし君が俺を覚えでなくたって、それでも多くは望まない。
生きて、そばにいてくれたら それだけで。
これから先、俺の持つものも俺自身も、全て彼に捧げる為のものだ。
俺は幸せだった。
彼をこの世に呼び戻してくれた義姉と兄に感謝した。
ところが。
赤ん坊の彼の傍にはもう一人赤ん坊がいた。
彼と双子で生まれてきた、10分違いの彼の兄。
"ソレ"を見た時、明らかな違和感と既視感があった。
(なんだ、これは…。)
俺は呆然とした。
何故ならば、もう一人の甥である"ソレ"は、よく知る誰かにひどく似ていたからだ。
"ソレ"は最も近しく、最も危険な敵になると、俺の本能が告げていた。
そしてそれは現実になった。
最初から恋人と共に生まれたその兄は、自分の弟に対する独占欲を俺に隠そうともしなかった。
常に俺を牽制してくるその目は、とてもよく知るもので、俺は混乱した。
…あれは、誰だ?
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