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13歳
生まれてからずっと、"彼ら"の目は俺に注がれていた。
「マオ、制服のボタン取れかけてる。」
「あ…ほんとだ。」
言われて右の袖口を見ると、確かに糸が弛んでいた。
相変わらずよく見てるな。
「直すから少し脱げる?代わりに僕の着てて。」
「…いいよ、自分でやるから。」
「マオ、こういうの全然ダメじゃん。いいから貸して。」
そう言われてしまうとぐうの音も出なくて、俺は素直に制服のブレザーを脱いでレオに渡した。
レオは器用で、自分の為と言うより俺の為に常にソーイングセットも携帯している。
「寒いでしょ、これ着てて。」
「いいよ、少しの間くらい。」
「いいから。マオは風邪ひきやすいでしょ。」
半ば無理やり着せられるレオのブレザー。
体温がそのまま残っている。
「…ありがと。」
俺はこんなに無愛想なのに、レオはずっと優しい。
俺とレオは現在 中学生。
13歳だ。
玲くんを含めた俺達3人の微妙な関係は相変わらず。
家族なのは仕方ないけど、出来るだけ接するまいとする俺と、そんな俺の態度にも懲りずに優しく接してくれるレオと玲くん。
俺はまるで、"彼"を2人相手にしているような感覚に陥る。双子なのは俺とレオなのに、レオと玲くんがあまりにも似過ぎていて不思議だ。
レオが成長していく毎に玲くんに体格も近づいてきたからまた…。
家族も2人は似過ぎだって言ってる。
まあ叔父と甥が似る事なんてままあるし、小さい頃からだから麻痺してるというか、慣れてしまってるけど他人から見たらそっちの2人が兄弟みたいだよ。
俺とレオはあんま似てないから余計そう思われてそうだ。
レオは器用に針と糸を使う。
瞬く間に俺のブレザーのボタンは綺麗に直って手渡された。
「ありがと。」
「どいたま。」
受け取ると綺麗な長い指が一瞬 名残惜しげに空を彷徨い、そして下ろされた。
「じゃ、これ…あ、」
レオのブレザー返そうとしたら、それを着たままなのに 片手が塞がったなと思って困ったら レオが後ろから脱がせてくれる。紳士過ぎ。
これ、まるで2人の世界みたいだけど、実は教室内で周りにはちゃんとクラスメイトがいる。
そしてこの一部始終を見られている。
周りのクラスメイト達からは、まるでレオが一方的に俺に尽くしてるように見えるみたいだけど、あながち間違いでもないのが辛い。
だって本来、隣のクラスの筈のレオは、休み時間には教室移動とか何か無い限りは必ず俺のクラスに来るし、昼休みなんか絶対だ。
入学して直ぐの頃はすごくザワつかれたけど、小学校が同じだった同級生達は、ああやってるな、って感じで見てた。
それくらいお馴染みの光景だったからだ。
呼んでなくても来る、来るなと言っても来るレオの奇行のせいで、何時の間にか俺達は、双子ブラコンという不名誉なあだ名迄いただいてしまっていた。
お陰で、めちゃくそモテる筈なのに、俺のそばにいる時のレオには女子が誰も寄り付かない。
ついでに俺にも寄り付かない。
そんでレオ狙いの女子達からは俺が睨まれてる。
迷惑だ。ブラコンなのはレオだけなのに。
俺にあたるより自分でレオにトライしろ。
「マオ、ちょっと動かないでね。」
「…ん。」
レオが小さな粘着シートを出して俺の制服の埃を取り始める。
本当に一方的に世話焼かれてるけど、仕方ないんだ。
拒否するとすごく悲しげに見てきて、その後ずっと落ち込むから、まるで俺が悪者みたいに見られてしまう。
小学校の時にうっかりそれやっちゃった時、やけに強火なレオ担の女子達に睨まれる羽目になったから、それ以来 学習して、学校にいる間は大人しくしてる。
それからというもの、レオは学校では許されると思ったらしく、遠慮無く世話を焼き、ベタベタひっついてくるようになってしまった。
そして今ではイケメン双子兄の庇護下に置かれた平凡弟、というキャラが確立してしまった。
今更それを覆す気力も無いけど、内心は溜息の連続だ。
こんな風にベタベタに甘やかしたって、どうせ最後は別の人を選ぶ癖に。
俺は絶対にレオに気を許さない。
家に帰ると居る、もう一人の"彼"にも。
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