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Who are you
どんなに同じに見えても、僅かな違いってあるんだな。
成長と共にレオはどんどん大胆になり、俺はそれにも頭を悩ませている。
まるでそれが当然かのように、自然に俺に触れるようになったレオ。
何時も遠慮がちに俺を見つめては、時たま壊れ物に触れるように抱き締めてくる玲くん。
真っ直ぐに迷いなく俺を見詰めるレオ。
眩しいものを見るように目を細めながら、それでも遠慮がちに優しい眼差しをくれる玲くん。
年を重ねる毎に2人の態度や俺への距離のとり方は明確な違いが出てきた。
成長したレオは周りの同級生達より一回り背が高い。
後ろから見れば、もう殆ど玲くんとの見分けは難しい。
スーツか制服かだけの違いで、ヘアスタイルも似たようなもんだからますますわからない。
何故変えないんだ。
俺でさえそう思うんだから、両親や祖母なんてそりゃよく困惑してるのは仕方ないと思う。
昨晩テレビを観ながらレオに、
「ああいう短いのも似合うんじゃない?」
って、画面の中で歌って踊ってるアイドルを指しながらそれとなく言ってみたけど、
「この方が好きって言ってただろ。」
と返ってきた。
もう俺も確信してる。
レオにも玲くんにも記憶はある。
そして、俺が覚えてる事も、2人も多分わかってる。
だって俺は、レオの前髪とサイドの少し長めのヘアスタイルを好きだなんて、マオになってから一度も言った事が無い。
綺麗なツルツルの黒髪の感触が好きで、少し長めにしててよなんて強請ったのは、随分昔の事だ。
だからきっと、2人は敢えて同じにしてるんだろう。
もう、俺が髪に触れる事なんか、無いのに。
「見合いは断った筈です。」
「だって玲、貴方一度も彼女すら連れて来た事無いじゃないの。」
「付き合う意思と結婚する意思がないからです。」
「でも何時迄もそれじゃ困るでしょう。もう30なんだから…。」
「わかりました。家に居座られているのが困るという事であれば別に部屋を借りて独立しますよ。」
「そんな!
そんな事を言ってるんじゃないのよ。」
母に届け物を言付かって祖母に会いに母屋に行くと、玄関を入って直ぐにそんなやり取りが聞こえてきた。
(見合い…)
何故だか胸がツキンと痛んだ。
そうか。玲くんも、もうそんな年齢なのか。
今生、俺とは年齢差があるんだ、当然だよな…。
それに彼は、俺が知っていた過去世での年齢をとうに越えてる。
結婚して子供を作ってても、全然不思議じゃないんだ…。
容姿が良く性格も穏やか、学歴も勤務先も年収も申し分無い玲くんには、きっとこれ迄も幾つもの縁談が来ていたんだろう。
会社でだって、玲くんと付き合って結婚したい女性はたくさんいるのかも知れない。
なのに、何となく 玲くんはずっと俺の近くにいてくれる、なんて思い込んでいた。
日頃あれだけ邪険に扱ってるのに、俺ってかなり身勝手。
もう好きになんかならないって思ってるんなら、玲くんが誰と付き合おうが結婚しようが気にするのは変だ。変なのに。
もう愛なんて信じない、要らない、枯れてしまったなんて思ってるのに、いざ本当に玲くんが誰か他の人を選ぶかもしれない現実を突きつけられて、俺は戸惑っている。
何で戸惑ってるんだろう。
かまわれるのを迷惑だと思ってたじゃないか。
俺の愛をほんの数年であっさり裏切った癖に、って。
俺が知らないと思って、何も無かったような顔で、前と同じように俺に笑いかけるなって、思ってたじゃないか…。
ずっとたくさん拒否してきて、傷ついた顔で微笑ませておいて、何で今更…今更、苦しいなんて思ってるんだろう、俺。
なんだか無性に泣きたい気分になった。
俺、本当はどうしたいんだろう。
届け物の袋だけをそっと中に置き、静かに母屋の玄関を出る。早く自室に戻ってベッドに潜り込みたかった。既にレオと部屋は分けられているから少しくらい泣いてもきっと大丈夫。
1人になりたかった。自分の気持ちを整理しなきゃいけない。
なのに俺が自室に入るのを見ていたレオがリビングから追ってきた。
中に入って内鍵を掛けようとするのを阻まれ、入り込まれる。
「出てけってば!」
「僕がいるだろ!」
まるで何があったのかお見通しみたいにレオは叫んだ。そして、両手を握られ壁に固定されて、キスをされる。
甘やかすように唇を食まれてとうとう俺の涙腺は崩壊して、涙が滝のように流れ出た。ギョッとしたのかレオは唇を離す。
泣かれてビビるくらいなら勝手にキスなんかするな。
「何でこんな事すんの?レオは違うじゃん!」
俺が泣きじゃくりながらレオから顔を逸らすと、手首を拘束する力が少し弱まった。
「…何が違うんだよ」
「レオは彼じゃないんだろ!!」
「…っ」
「同じに見せても もう全然違うじゃん…。」
問いかけに答えた俺に、レオが息を飲んだのが聞こえた。
そうだ。
時間がかかったけれど、もうわかったんだ。
どれだけ似ていても、似せていても、違いって出てくるもんなんだよ。
真っ直ぐに見て、今度は俺から問いかけた。
「レオ、お前は 一体、誰なんだよ…?」
レオの目が悲しげに揺れた。
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