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妹は5歳男児 (マオside)
思いがけない再会に呆然とするのは俺達の方だった…。
あのエリンが。
仲が良い悪いとかは関係無く、俺との相性は最悪だったらしい、あの妹…。
あの時神の"遣い"は、俺が玲を指して言った"アイツ"を妹と勘違いした。
だから妹は俺の世界にはもういないものとばかり思い込んでいた。
「エリン…え、ほんとに…?」
困惑しながら声を震わせる俺に、男の子はやっぱり年齢にそぐわない笑みを浮かべた。
「うん。
あの時はもう会えなかったけど、会えてよかった。
今回は幸せになってくれてるんだね。」
「お前こそ…お前も…。」
親に隠れて俺の事をそっと気遣ってくれる妹の事を、俺は嫌いじゃなかった。
俺達兄妹に格差がつけられていなければ、俺達はきっともっと良い関係で生きられた筈だ。
レオや玲からエリンの事を聞いてから、子供を抱えてどう生きたのかとか、そればかり気になってて。
もうどうやら会えそうにはないけれど、知らない場所でも幸せにやっててくれたらと、思ってた。それが、まさか。
「そうか…うん、よかった…お前も、元気そうで…。」
少し涙ぐんでしまう。
まさか、こんな場所で会えるなんて。
「よく、俺だと気づいたな。」
まず、それに驚いた。
俺は全く気づかなかった。
目の前に立たれていても、俺にはわからなかったと思う。
そう思いながらエリンの姿を観察する。
綺麗な身なりだ。
幼いながらも、服もブランド物みたいだし、顔の色艶も良くて清潔そうだ。
良い家に生まれて大事にされているんだろうな、とわかる。
「そりゃわかるよ。お兄ちゃんは目立つもん。」
エリンはそう言って笑う。
目立つ、って。どちらかと言うと埋没する方だと思うけど…。
そう言うと、エリンは う~ん、という表情をして、
「そういう事じゃないんだよな~。」
と、笑った。
エリンの言う事はたまによくわからない事があったけど、そこは相変わらずみたいだ。
それはそうと…
「今回は男、なんだな。」
幼いけれどしっかり整った容姿は、将来の有望さを感じさせる。エリンは頬を人差し指で掻いて、首を少し傾げながら答えた。
「あ~、えっとね。今回男って言うより…、便宜上この話し方してるけど、私が女性に生まれたのはあの一度だけ。
典型的男型の魂らしいから。」
「男型?」
へえ、魂にそんなのがあるのか。知らなかった。
「男寄り、女寄り、中性寄り。色々だよ。人間の時と同じ。」
「そうなんだ…。」
「ついさっきまで何の記憶もなかったのにお兄ちゃん見つけた瞬間、全部思い出したから 流石に混乱しちゃった。」
「めっちゃ落ち着いて見えてるけど…。」
「まあ、別の人生でも突然思い出す事は何度かあったから、慣れ?」
「そうなんだ…」
俺とエリンが話すのを玲は傍でじっと見ていたが、ぼそりと口を開いた。
「アレフは?」
あ、あ~!あの彼!
戦場に儚く散ったエリンの恋人。
すると聞かれたエリンは、幼児らしからずニヤリと悪い顔で笑った。
「いるよ。幼馴染み。男だけど。」
「男なの?!」
つい突っ込んでしまった。
俺と玲なんか毎回男同士に生まれてるんだから今更なのに。
そんな俺に、エリンは初めて年相応の屈託の無い笑顔を見せながら言った。
「今度は何処にも行かせないようにきっちり傍で見張って、早々にモノにするから大丈夫。」
「…頑張ってね。」
…アレフは…同性は大丈夫なのだろうか…。
…まあ大丈夫か。
「とにかく、お兄ちゃんとレイさんが一緒で安心した。
また会える事があるかはわからないけど、元気でね!」
「ああ、お前も。…健やかに、元気で。」
「会えてよかった。元気でね。」
エリンの言葉に俺と玲が答えると、エリンは笑って小さな手を振って、歩いていった。
その先には父親と母親、そして俺と同じくらいの姉らしき少女。
今のエリンの家族なんだろう。心配そうに見ていたので会釈をしたら、微笑んで返礼された。
そうか、迷子じゃなくて、言葉をかけに来てくれる為に待たせていたのか。
「…良い家族そうでよかった…。」
「あの子は何処に行っても大丈夫だよ。」
そうだな。
あのお姉ちゃんとは相性が悪くないと良いな。
「大丈夫だろう。
見たところ、あれだけ歳が離れていれば。
それに、ほら。」
父親も母親も、姉に笑顔で話しかけている。
その様子には愛情が溢れていて、俺はホッとする。
あの姉は俺みたいな事には、きっとならないだろう。
「そうだね。」
今度はきっと、何に気を病む事も無く、普通に幸せになって欲しい。
…アレフも、多分。
エリン達家族がゲート方向へ歩いていくのを見送って、俺達はもう一度ツリーを見上げた。
クリスマスには不思議な事が起こるものなのかも知れない。神様のプレゼント的な奇跡なんだろうか。
自分の息子の誕生日だから、大盤振る舞いなのか。
そんな事を思って、玲を見ると、玲も俺を見ていた。
そして彼の綺麗な暗緑色の瞳を見た俺は思い出した。
「あ、そうだ。」
今夜、大切な事をしなきゃいけなかったのを。
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