玲くん

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玲くん

玲くんは俺や兄のレオとは15歳離れた父方の叔父だ。 つまりまあ、父の歳の離れた弟。 俺とレオが生まれた時は中学生だった玲くんは、今では立派な社会人。 父と同じ大手企業に入社していて、会社では女子社員のお誘いがひっきりなしらしいが 毎日その一切を振り切って直帰してくるらしい。 何故か母屋ではなく、ウチに…。 父方の祖父は数年前に病気で亡くなったらしくて、この家では俺の両親とその子供である俺とレオ、敷地内の母屋で父方の祖母と叔父が暮らしている。 …の筈なのに、何故か伯父の玲くんは俺達…正確には俺が生まれた時からずっとこっちに入り浸って俺を構い倒している。 両親に何とか止めて欲しいところなのだが…。 「歳の離れた兄しかいなかったから、弟が出来たみたいで嬉しいんだな。」 両親共にそう解釈したのか、俺に構う玲くんを微笑ましく見ているらしく、未だに玲くんはそのままウチに入り浸っている。迷惑。 玲くんは前世とは人種が違う筈なのに、ほぼそのままの容姿なので、そりゃあ女の人にも一部の男の人にもモテてるんだけど、それらには全く興味が無いようだ。 それどころか、学生の間はチビだった俺を常に左腕に抱えてその辺をウロウロしていた。 どうせなら右腕にレオも抱いたらどうなんだ。 普通ならそんな奇行を働く若い男とか、絶対不審がられると思うんだが、近所のご婦人方からは『甥っ子を可愛がる玲くん優しい~』という緩い評判なのでご近所さん達もどうかしてる。 何なんだ。顔か。顔だな。 玲くんはノーブルで上品な顔立ちをしている。 玲くんがそうだという事は、つまりレオもそうだという事だが、そっくりなこの2人は互いに殆ど口をきかない。 かと思えば、たまにコソコソと人目を避けて何か話している事もある。 俺と同じで玲くんにはレオも甥っ子だし自分に瓜二つなんだから、そっちを可愛がれと思うんだが、レオもレオで俺を独占しようとする玲くんに対抗しているので、相容れないんだろう。 2人のどちらかが "彼" だとして、この俺に対する優しさは過去世で 約束を違えた罪滅ぼしなのか、後ろめたさからなのかどっちだろう。 そして俺には、未だに2人の内の何方が俺の恋人だった彼なのかわからない。 年齢が違うとはいえ、何方も同じ顔、気配。 だからといって、あれだけ一緒にいて契り迄交わした俺に判別がつかないなんて事が、未だに不可解だ。 だってどう見たってどっちも彼で同一人物なのだ。 相性最悪らしい妹との縁を絶たれた事より、こっちの方が俺には問題だ。 金曜の夜。 ゲームにも飽きて、眠くなったので、歯磨きをしてきてベッドに向かう。 両親におやすみの挨拶をして子供部屋に戻ると、既に玲くんがベッド前に座っていて、レオがベッドの上段からそれを睨みつけていた。 「…玲くん、自分ちに帰りなよ。」 「たまには一緒に寝ようよ。」 「嫌だよ。」 「そうだよ玲さん。マオが嫌がってんだからさっさと帰りなよ。大の大人がみっともない。 マオは僕と寝るんだ。」 「嫌だよ。そのまま上で寝てよ。絶対降りてこないで。」 毎週末、夜になると起きるこのくだらない争いにも辟易している俺。 一緒に寝て一体何がしたいのか。 今の俺はいたいけな10歳の男子児童だぞ。 何かやらかしたら訴えてやるからな。 内心はそう毒づいているのだが、表面上はスンッとすましている俺。 ここ2、3年くらいはずっと断り続けているのに、玲くんは懲りずに毎週末やってくる。 25歳男性と言えば、普通に考えれば週末なんか恋人と過ごしたり友人と遊んだりするもんじゃないのか。 何故小学生の甥と過ごしたがるんだ。 俺は はぁ、と呆れる。 とうとう今迄言わなかった言葉を口にしたのは、最近夢見が悪くてイラついてたからだ。 「俺に構ってないでさっさと他に恋人でも作るか、結婚して子供でも作りゃ良いじゃん。」 そんで自分の子供を構い倒してやんなよ、という気持ちを込めて。 すると何故か玲くんだけじゃなくレオ迄もが息を詰めた。 それを不思議に思いながら、俺はさっさと布団を被り2人の視線に背を向ける。 玲くんはそれ以上、何も話しかけてはこなくて、ホッとした俺は直ぐに眠りに落ちた。 だから、後の2人の様子は知らない。
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