そういや狼だったな。

滴る女

冷たい目で私を見たその人は

「ちょっと確かめたくてね。」

そういったっきり何も言わなかった。
一回信号で止まる時に耳打ちされた。運転手さんには聞こえるか聞こえないくらいの声で。

「果てなさい」

私の耳にもブレーキの音と被ってよく聞こえなかった。

この人がなんで来たのか何をするつもりなのか私には何一つわからない。

車に乗ってから数分たったとき、車が止まった。
ドアが開くと、その人はお札を置いて私の腕をグイっと引っ張った。

なんにも言わず無言の圧で私はその勢いに飲まれるように、目の前の高層マンションに入った。

黄色いフロントの光が温かく私たちを包んでいた。
最上階のボタンを押して上っていくエレベーターが長かった。

紺色の扉が重く開く、
電気をつけて当たり前のように入っていくその人はそれでもまだ私の腕を離さない。

「あの…」

その人は振り向かず、奥の部屋に私を連れた。

やっとこっちを向いたその人は暗い光に照らされてまるで　狼　みたいだった。