錆びた天秤

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「あの……殺人の審査書類ってここでもらえますか?」 「公式殺人の書類はこちらになります、同封されているマニュアルを熟読かつ熟考された上で窓口に提出してください」  やつれた女は弱弱しく封筒を受け取ると、逃げるようにいなくなった。  井草正義(いぐさまさよし)は減った分の書類を補充し席に戻ると、やりかけだった書類を片付け始めた。    山のように積まれた書類を上から順に打ち込み、整理していく。  気の遠くなるような、大概の人間なら投げ出したくなるような量の仕事を井草は顔色一つ変えずに片付けていく。   「さっき来てた子、何系だと思います? 俺はやっぱり男絡みだと思うんですけどね」 「分かりません、それにそういった詮索は無意味だと思いますが」 「はは、堅いなあ。もっとゆるくいかないと」  井草は話しかけてきた軽薄な男をチラリとも見ない、男もそれを大して気にする様子もなくコーヒーと共に彼の隣の席に座った。  シワ一つ無い黒のスーツ、短く整えられた頭髪、スクエアタイプの黒縁メガネ、といかにも堅そうな井草と違い、隣に座った男は紺のスーツを着こなした茶髪の男で、顔は整っているがどうにも不誠実さが滲んでいる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!