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「黒田さん、先日の資料はまとめ終わっているんですか? 確か今日が提出期限だったはずですが」
「あ~……ありましたねそんなのも。あとちょっとなんで大丈夫ですよ」
「そうですか」
井草は黒田幸一という男の相手をまともにするだけ無駄だという事を、よく知っている。
態度は軽薄、職務にあたる姿勢はお世辞にも褒められたものではないが書類などの提出期限に間に合わなかった事はない。
だから彼が終わるというのなら終わるのだろう、という事で井草は黒田に労力を割くのをやめた。
「しっかしまあ片付けても片付けてもきりが無いですね、どんだけみんな人を殺したいんだか。嫌になりません?」
「特には、仕事ですから」
「あっ……そっすか」
2072年、日本では殺人が合法化されていた。
年々凶悪化する犯罪に加え、犯した罪と法による裁きが明らかに釣り合っていないないケースが日本は多かった。
例として未成年者による犯罪や、性犯罪に対する裁きは周りや被害者に与える影響と比べ加害者への裁きが明らかに軽い。
またいじめを苦にしての自殺、職場でのあらゆるハラスメントを起因とした間接的な殺人に対する裁きを求める声も年々高まっていた。
本来は法改正を早急に進めるべきだったが、それはあまりにも遅すぎる。
一つ法が変わる前に百人の被害者が出る方が早い、そういった経緯から生まれたのが『殺人管理法』である。
例としてAがBを殺したいと考える、もちろんここでAがBをいきなり殺したらそれは当然違法だ。
だがAはBに対する怒りを到底抑える事などできない、ならどうするか。
国から許可を取るのだ、動機や殺害方法などを書類に記入し管理局に提出する。
そして殺人管理士の資格を持った人間が、書類内容を精査しこの殺人が正当なものかを判断する。
そして正当だと判断されれば、日時や場所などを指定された上での殺人行為を合法とする『殺人許可証』が発行され晴れてAはBを殺す権利を得るのだ。
井草と黒田は殺人管理局東京第一支部に席を置く、れっきとした殺人管理士である。
井草が片付けている書類は、窓口に提出された『殺人許可願』だ。
「あなたも早々に資料の作成を終わらせてください、午後から面談がありますから」
「はいはい」
黒田は仕方なそうにパソコンに向かう、半分ほどできた資料を片付けるために。
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