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面談室で待っていたのは、生気のない女だった。
スーツを着ているおかげか一定の体裁は保てているが、隠しきれない荒れた生活が各所から感じられる。
目の下にできた不健康なクマ、見るからに質が悪い黒髪、疲れ切ったようにこけた頬、それは彼女が現在どんな生活を送り、どういった現状にあるかを如実に表していた。
「お待たせしました、管理士の井草です」
「黒田です」
「……どうも」
力無く頭を下げた晴美の声は、細い蜘蛛の糸のような声だった。
二人は晴美の前に座り、書類を広げる。
「では冴島さん、今からあなたにいくつか質問をします。嘘偽りなく正直にお答えください、ただどうしても話したくない事柄につきましては無理に話さなくても結構です」
井草の言葉に晴美はゆっくりと頷く、彼女の目は薄く血走りどこか遠くを見ているような目だった。
「まずあなたが殺したい相手は以前勤めていた会社の上司である、斉藤康夫さんでお間違いないですか」
「……はい」
「あなたは彼から理不尽な量の仕事をいくつも押し付けられ、仕事に忙殺される日々を送っていた。あなたの提出された勤務記録と我々が調べ上げた勤務記録を照らし合わせた結果、それが事実だという確認が取れました」
「いやあ僕も見ましたがあれはひどいですね、僕なんかじゃとてもとても耐えきれませんよ」
茶々を入れた黒田を嗜めるように井草が視線を送る、それに気付いた彼は悪びれる様子もなくわざとらしく頭を下げた。
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