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「じゃあ殺しましょう、ぶっ殺しましょうよそいつ」
「は?」
「は? じゃなくてですね、我々は国としてあなたの殺意を肯定するって言ってるんですよ。井草さん、ちょーっとだけいいですか?」
「少しだけですよ」
「どもー」
黒田は井草から書類を受け取り、一通り目を通した後で再び晴美を見た。
「冴島さんの殺意はよーく分かりました、僕も資料の方は目を通しましたがねこの斎藤ってやつはろくなもんじゃない。殺した方が世のため人の為になるでしょうね」
「……はい」
「でですね、冴島さんは殺害方法の欄に刺殺と書かれていますが本当にこれでよろしいんですか?」
「はい」
「本当に?」
「一体何だっていうんですか! もっと楽に殺してやれとでも!?」
「まさか、その逆ですよ。本当にただ殺すだけでいいんですかって聞いてるんですよ」
その言葉に晴美の怒りは、風船を割ったように縮んだ。
目の前にいる男が発した言葉、それが仮にも公的な立場にいる人間が、言っていいようなセリフでは無かったからだ。
「わ……私はただ……あいつを殺せればそれで……」
「ええ~? ほんとですかあ? あなたが受けた苦しみってのはちょっと刺されてしぬくらいでチャラになるようなものなんですか? もっと陰湿に、惨たらしく、時間をかけていいんですよ。爪を剝がしてもいいし、目にマッチ押し込んだりとかしてもいいんですよ。だって国が認めてるんですから」
「何でも……」
「はい、何でもです」
それきり何も話さなくなった晴美と、機嫌の良さそうな黒田を見て井草は一つ大きなため息を吐いた。
「では、説明の続きを」
再び始まった井草の説明を、彼女はずっと上の空で聞いていた。
それから3日後の正午、冴島晴美による斉藤康夫の公式殺人が行われた。
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