ヘイジ

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 ヘイジは、これといって特徴のないごく普通の人間だった。強いて言い換えれば彼は猿の子孫で、具体的には身長も体重も平均並みで卒業までに必要な単位を大量に残していた就活生である。  残念なことにヘイジは知らなかったが、先日、最終面接を終え、手応えを感じていた企業のお祈りメールがスマホに受信を許してしまった。もっとも、今はそんなことを確かめている余裕はなく、スマホも部屋に置き忘れていた。ヘイジがそのことに気が付いたのは、線路内トラブルで東武東上線の電車が十分以上遅延していると知ってからだった。失態が失態を呼び、こねくり回されて、取り返しのつかない事実に陥る。この時のヘイジに何か一つの良かった点を挙げるとするならば、完全に二日酔いの呪縛から解放されたことぐらいだろう。  ヘイジは決して賢く立ち回れる人間ではなかった。それどころかいつも肝心なところであたふたして力を出し切れずに終わってしまう。パニック状態だったヘイジは目的地までの道のりを自ら走って向かったのである。
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