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一回限りの相棒には、決定的に足りないものがあった。もっと、積極的に攻める人間と相性がいい。
認めたくはないが、俺は慎重で臆病な性格だからだ。
気を取り直し、もう一度コンビを組み直す。
どんな奴と一緒になるか、ランダムに決まるマッチメイクの瞬間は、いつも期待と緊張感を与えてくれる。
自然と独り言も多くなる。
「お? 来たか」
ピコン、と合図の音がした。
しかし、いつもとは違う音だ。お知らせのマークが点灯した。
なんだろうと開いてみる。
「ん?」
友達申請──。
このゲームは、友達同士になればコンビを組める。
一瞬、先ほどの相棒が頭をよぎった。しかし、蜂の巣状態にされた直後に、そんなことがあるのだろうか。
疑問を浮かべながらも、メッセージを開き、プレイヤー名を見た。
「ん? これは……」
なにか嫌な予感が頭をよぎった。
見たことのない名前だ。それなのに申請が出せるということは、俺のアカウント名を検索してきた奴だと察した。
そのうえ、まるで俺を小馬鹿にしているような名前だ。
そんなことをできる人間は、他にいない──。
俺はため息をつき、ボイスチャットを開始した。
「……杉原だな? おまえ」
「え? そんな方存じませんよ。私はスギラーラと申します。よろしくお願いしますね、ミムラーラさん」
「くっ、貴様……こんなところまで来やがって」
脳裏に弟の顔が浮かんだ。ゲームをする弟以外、俺のゲーム上のアカウント名を知る者はいない。
頭に血が昇り、怒鳴りつけようと大きく息を吸い込んだ。
しかし、ヘッドフォンから聞こえた杉原の声に、自然と熱を帯びた息を飲み込んだ。
ムカついたけど、それは吸い込んだ息よりも、はるかに胸が熱くなるような言葉だった。
「よろしくな、相棒」
「……おい、まだやるって言ってないだろ? それに、なんだよ。話があるなら、さっさとしろよ」
「まぁそう言うなって。大草原を走るんだろ? 一回だけでいいから、俺と走ろうぜ」
「……仕方ねぇな。一回だけだぞ? 足引っ張るなよ?」
俺は渋々コントローラーを手に取った。
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