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「敵だ!」
俺はジャンプボタンを押して飛び跳ねた。跳ねては蛇行を繰り返しながら、敵の照準を躱す。
現実ではありえない、言葉にするならば『トンズラ』だろうか。滑稽な動きだが、ゲームの世界ではこれが有効だ。
しかし、どんどん体力ゲージが削られていく。連射する音が、背後から迫り来る。
このままでは、力尽きる。
「三村!」
杉原の声がした。
逃げながらも姿を探すと、敵のすぐ横の草むらから、飛び上がる姿が見えた。
それと同時に、ガチャリ、という音がした。
銃を構える音だ。
直後、炸裂音が響いた。
一人きりの体育館のフロアに、ボールを打ちつけるような音だった。
おそらくジャンプしてから着地するまでの、一秒にも満たない時間だった。
音が鳴り止んだ静けさと安心感が、俺を包み込む。
至近距離から頭部へのショットガン。これは迎撃されるリスクも大きいが、決まれば一撃で相手を倒すことができる。
敵は俺の方を向いたまま倒れていた。
杉原の方を、振り向くことさえ許さない一撃だった。
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