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3「別行動は前途多難」
街に入った三人はまず行き先を確認しあった。アイコンタクトでお互いの気持が伝わっただろう二人が口を開くのは同時だ。
「まずは飯だな」「まずは本屋だな」
ジュライはディープの答えに信じられないという顔で人差し湯に片手に詰め寄った。
「まずは腹ごしらえだろう!!!何日まともな飯食ってないと思ってんだ。腹が減ってちゃ何も出来ないだろうが」
「食事は毎食取っていただろう。今日の朝だってご丁寧に俺が作ったスープを一人で平らげてくれちゃって。そんなに美味しかったのか。作る側としては嬉しい限りだが、それはそれとおいておいて俺は熱心な信者として愛の言葉を受け取るべく聖典の補充をしなければいけないんだ。地域によって発刊されている内容が」
突っ込ませる間もなく余裕しゃくしゃくとペラペラ得意気に喋りだすディープだが、ジュライも負けてはいられない。話を全部聞いていたら絶対に譲ってなどくれないのだから。
「また本増やす気かよ!!!聖典ってどうせまた恋愛小説だろ!!!車圧迫するだけで、腹の足しにもならないだろうが」
「俺のバイブル、心のオアシス。出版本に個人で作る薄い本まで、恋の話は俺の主食だ。心に余裕をもたらし、素晴らしい教義を授けてくれる」
「それが何の役に立っているんだろう」
「たっただろう、さっき」
「用途違ってんじゃねえか!!!大体目的忘れんなよ。俺達がここに来た目的は」
「分かってる、分かってるって」
ふんふんと頷きディープは得意げに顎を突き出す。
「今度こそ、最愛のパートナーを見つけて見せる」
「早々に目的忘れてんじゃないか!!! なんなの、お前の脳にはそれしかねえの!!!お仕事だろ!!!」
「仕事だけじゃ、人間生きていけないんだよ。心に」
「もういいわ」
話に付き合っているのに限界を感じて、ジュライは二人に背を向けた。
「勝手に腹ごしらえしてるから、好きにしろよ」
「はは、結局いつもと同じか。ソウル、俺は本屋探して来るからお前は壊れた車のパーツ探しておいてくれ。と、そうだジュライ」
辟易していたジュライだが、流石に声をかけられて無視する訳にもいかず後ろを振り返る。
「代金はちゃんと払えよ」
「子供じゃねえんだから!!!」
街中にも平然と伸びている根で躓かないようにしながら、街を探索する。
割れた道の整備が甘く、好き放題に根の侵食を許していることから街の規模は大きくなさそうだとあたりをつけジュライは嘆息した。
食べれるだけで有り難いと口をそろえる二人に対して、ジュライは若干異なる。二人と旅を始めて数ヶ月、未だに満足する食事にはありつけていない。
二人と旅を初めた原因もそれが大きかった。
ディープの作る料理はそれなりに美味しい。
お抱え料理人とまでは行かなくても、どんなものでもそれなりに調理してしまう。
少なとも家を出てから二ヶ月間で食べた食事の中では一番美味しかったかもしれない。
「それにあいつ」
口に出して、思い浮かんだ言葉におぞましさを覚えて口を振る。
もう一つの理由は誰にも知られたくないことだ。
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