3「別行動は前途多難」

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 思ったとおり、街にレストランらしいレストランはなく個人経営の小さな飲食店が一軒あるだけだった。 見た目で判断するのは悪い癖だと言い聞かせながら、店内に入った。  そして今に至る。  目の前に出された料理を一口食べて、ジュライは席を立ちたくなる気持ちを必死に堪えた。 素朴な味で味付け自体は悪く無い、悪くは無いのだが癖強さに気持ち悪さを覚える。 「これに金払えとか」 だがまあ、悪くはないのだからと言い聞かせて口に運ぶ。 下処理は丁寧だ。 野菜の角とりにまで気を配られている。 合わないのは食材だろう。何の食材かはこの際考えないことにした。 二人と旅をしていて悟った事だ。 庶民が食べるものは時として正体を知らない方がいいこともあると。 「口に合わないなら食べなくていいんだよ」 やべっ、聞かれてたのかよと振り返ると恰幅のいい女性が腕組みをしている。 「よそ者が、食わせて貰ってるだけでありがたいと思いな」 言い分は最もだ。 どう考えても自分が悪い。 味が気に入らないだけで、料理に手がかかっているのは十分に分かることだ。 不満を言えた義理じゃなのは当然。 「悪かったよ」 とはいえ、食べなくていいと言われてそれ以上食べる気にもならず財布を取り出そうとポケットに手をいれた。 「気持ちの悪い傷跡晒して」 駄目だと自分に言い聞かせる。 今は二人がいない。 堪えろと自分に言い聞かせる。 言い聞かせては、いた。 「何するんだい!!!」 いたが、思考よりも早く身体が動いていた。自分でもどの段階でグラス掴んでのか分からない。 手に持ったグラスがぽたぽたと水を滴らせる。 冷水を浴びた店主は顔を真赤にした。 「悪かったって言ってんだろ、このババア」 半分首を傾けて、傷を隠すように伸ばした右目周辺の前髪をかきあげて笑った。 「こんなもの食えるかよ、こっちから願い下げだ」  椅子を突き飛ばして乱暴に席を立つ。 「金はいらないよ、もう二度とくるんじゃない」 「誰が来るか!!!」  外に出ようとしたジュライだったが、小さな衝撃を感じて足元を見る。まだ十歳にも満たない少年が俯いたまま震えていた。 「ピアロ、また虐められたのかい?」 店主がジュライを突き飛ばして少年の前で腰をおって、少年の顔を覗き込む。 ピアロと呼ばれた少年の手足は傷だらけだった。 顔にも青痣が出来ている。 少年は頑なに顔を上げない。 「あの女は一体何してるんだい、息子がこんな目にあってるってのに。なんだい、あんたまだいたのかい。見せもんじゃないよ」 「ピアロ」 ジュライはその名前を繰り返す。 「なんだい、よそ者が。この子は」 「魔眼者だよな」 言葉に緊張が走る。店主はピアロの肩を強く握った。 「そいつに用事があって来た」 「あんたまさか、政府の、処分局の人間かい」 青ざめながらも気丈に店主はピアロを背に庇う。 質問には答えない。 ジュライは冷たい目をしたまま、ジャケットのポケットに手を差し込んだ。
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