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5「森の侵食と魔眼の力」
若干、身体に怠さを覚えながらも軽く伸びをしようとして固まった。
ソウルも歩き出そうとした足を止めて首筋を抑えている。
「今の気づいたか」
「ああ」
街の西だろうか、感じられたのは木の属性。
ザワついた悪寒と気持ち悪さ。
気配を探ることの出来ない普通の一般人ですら、気持ち悪さに気づいたのだろう。
突然軽く地震の際に地面が僅かに震えるのを感じるのと同じように「今なにか」という表情で辺りを不安そうに見回す人がいる。
向けられるソウルの視線。
言いたいことは分かっている。
ソウルはディープの方に行くのだろう。
「一人で大丈夫だ」
「上手くやれ」
返事をしている間も無く、ジュライは駆け出していた。
街の西側では、子供が一人蹲っていた。膝を抱いて塀を跨いだ木の根に囲まれた隙間でじっとしている。
処分局の噂は父親から聞いたことがあった。
この街はある国に属していて、国では魔眼者の存在は許されないらしい。
母親と二人でこの街に来ることになったのも処分局が魔眼者を連れて行く為に街を回っている。
という噂があったからだ。
国自体、機能しているとはいい難いしピアロも街と国の違いはよく知らない。
何故今更各街を回ってまでそんな事を始めたのかとか難しいことはピアロには分からない。
ただピアロに分かったのは、処分局の人間に見つかってはいけないということだけである。
「僕、殺されちゃうのかな」
ピアロはそっと自分の片目に触れた。
生れつき色の違う二つの瞳、オッドアイ。
前の街では片目が茶色だというだけで目をくりぬかれそうになった。
この街でもいい顔はされなかった。
けどまだ子供だから、何もしないならと見逃して貰って住まわせて貰っている。
ただ街の人は皆、ピアロを避けた。
ピアロの眼にはあるものが見えるからだ。
震える手を片目に向ける。
なければ、処分局の人間だって見逃してくれるかもしれない。
父親はこの力が気持ち悪いと出ていった。
その上、母親からも引き離される事はまだ幼いピアロには耐え難かった。
指が目尻に触れた時、異変はあった。
もたれかかっていた木の根が、どくんと脈打った。
木の根が動いている。
慌てて根の間から出ようとしたが、せり上がってきた根に行く手を阻まれて、身動きが取れなくなった。
「侵食が始まったぞ!!!!!!!」
「早く逃げろ!!!ダライララが来る!!!」
遠くで人の声が聞こえた。
街の方に向かって木の根が動いているのを感じる。
獣の唸り声がした。
犬にも似た唸り声、地のそこから響く。
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