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黒い影の群れが隙間を横切った。
狼と兎が混同した奇妙な群れ。
だが、狼も兎も複数の眼を持ち、毛皮の色は黒に近い深緑で十字に口が避けている。
侵食が始まると森の奥から自然と湧いてくる森の異形達。
ダライラライヌと呼ばれる一匹が鼻をひくつかせてピアロがいる木の根に気がついた。
そして飛びかかってくる。
ピアロは狭い木の根に背を預けたまま、歯を震わせて口元で作った拳を震わせた。
ダライララの十字に避けた口が広がり、眼前に広がる。
幸い牙は木の根に阻まれたが、ダライララが木の根を懸命に牙でこそぎとり始めた。
木の根はその間も蠢き、太さを増しピアロがいる空間を圧迫している。
ダライララの牙が届くのが先か、それとも木の根に押しつぶされるのが先か。
何れにしろ絶望的な二択しか無いのは明らかだった。
もう駄目だとぎゅっと目を閉じる。
浮かぶのは人に蔑まれた記憶ばかりだ。
楽しい記憶なんて微塵も浮かんでは来なかった。
一瞬、覗く光が赤くなった気がした。
次の瞬間、熱風がピアロを襲う。
根にかじりついてたダライラライヌが悲鳴をあげて、弾き飛ばされた。
「あんた、何してるんだ。街ごと燃やす気か」
「うるせえ!!! 黙ってみてろ」
根の前に、オレンジ色の髪がたなびいた。
腕と拳に纏った炎に負けない燃えるような赤毛。
食べ物屋で見た男だ。
目があった。
ジュライは一瞬、目を大きく見開いたがピアロと外界を繋ぐ穴が今にも潰れそうになるのを見て踏み込んできた。
握りこぶしほどになった穴に、ジュライの腕が差し込まれた。
腕の先の炎が消えていく。
「ぐっ!!!!!!」
根がジュライの腕を締め付けた。
ピアロのいる空間ももう殆どが根で埋まっていた。
身体が根に締め付けられ始める。
「なんで、僕を処分しに来たんじゃないの」
呟くピアロの耳にジュライの声が聞こえた。
「赤の魔眼は破壊の魔眼、左の赤は限界破壊!!!!!!」
みしみしと音を立てて、穴が広がっていく。
両手を差し入れて、ジュライは木の根をこじ開けた。
ばきばきと根が押し広げられていく。
「大丈夫か」
ピアロの小さな手よりも大きくて、温かい手がピアロの手を掴んで引き上げた。
ジュライのオレンジかかった赤い左目が今は赤みを増している。
「どうして」
「お喋りは後だ、今はここを切り抜けんぞ」
ピアロを抱きかかえて、ジュライは襲いかかってきたダライララを蹴飛ばして弾いた。
「そんなやつに構うな!!!その餓鬼は魔眼者だぞ!!!」
「ダライララが襲ってくるなんとかしてくれ!!!」
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