12人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
五
「はぁ……青行燈、さん」
彼の優しい口付けが、頬から鎖骨、そして私の手へと落とされる。その甘い感覚を追いかける度、意識がどろどろと混ざる。
彼がこぼれたものを拭ってくれたようだけど、その感覚も不確かだ。
「……ありがとう、お嬢ちゃん」
夢現に誘うような、彼の慈しむ声がした。
「は、い……」
「あぁ、眠たかったらそのまま寝てもいい。疲れただろう」
体に感じる違和感よりも強い眠気が、彼の体を伝って流れ込んでくるような感覚。
下腹を体温のない指が撫でていることに気付きながら、意識が溶けていくのを感じていた。布団の感触が心地よい。彼の匂いを感じる。
これで、ちゃんと青行燈さんのお嫁さんになれたのかしら。
ちゃんと出来たという安心感と、彼と繋がれた幸福感。そのふたつが、私の思考を否応なしに奪っていく。
「おやすみ、愛しい花嫁」
私の心を読んだかのように、低く優しい声音がした。
安心して瞼を閉じる。彼がそっと私の前髪を手に取ったのがわかった。
力が抜ける体と心。幸せな黒い泥にとけてゆく。
夢の中、あなたと私の間に抱かれる小さな子の顔を見た気がした。
最初のコメントを投稿しよう!