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僕は数年後元気になり、町民として働き出した。マリエルと僕は両想いになり、所帯を持った。僕は運動不足を取り返そうとして、筋トレもはじめた。
ある時、爆音が王都を揺るがした。僕とマリエルが家の外に出ると、城は一部崩壊し、そこから煙を吹いていた。ダイナマイトだ。
「ランデュ!」
僕は走り出していた。気が付くとあんなに恐れていた王宮に顔パスで単身乗り込んでいた。
ランデュは崩壊現場の近くで、テロリスト5人の手にかかろうとしていた。僕は飛び込んで行って、5人をなぎ倒した。政治は下手だが、僕は武人だ。格闘技に長けている。
「国王様」
「ランデュ、大丈夫か」
5歳年上のランデュは、少し老けたが、相変わらず美しい容貌をしていた。僕は彼を立たせると顔を背けた。
「すぐ帰るから」
「そんな事言わないでください。どんなに会いたかったか」
ランデュは僕を抱きしめた。
「僕を許すのか」
「許すも何も、あなたは私の君主ではないですか」
僕の目からせきを切って涙が出た。
「ごめん、ランデュ、ごめんね」
「国王の任務が残っています、背負ってくださいますか」
気がつくと現場は駆けつけた臣下に囲まれていた。マリエルもいた。みんな固唾を呑んで僕の返事を待っている。
「うん。でももう僕、強くないんだ」
「いいんです。もう強さは必要ありません」
その日の晩、王室に通され僕とマリエルはやすんだ。マリエルの身分上認められるか心配だったけど、彼女は老大臣の孫だった。聡明なはずだ。
僕は寝室で就寝した。深夜枕元に悪魔が出てきた。真っ赤な目で僕を見ている。
「何人殺した。責任を取れ」
悪魔はもう三匹出てきた。
「何人殺した。責任を取れ」
僕がパニックになった時だ。誰かのビンタで目が覚めた。
目の前には朝日がさしこみ、先に起きたランデュとマリエルが立っていた。
「ぶった……、ランデュがぶった」
呆然としている僕の前で、ランデュは両手を腰に当ててふてぶてしく笑っていた。
「もう絶対王政ではありませんからね。私と国王様は対等です」
僕は片手で頬をおさえ、気が付かないうちに笑っていた。
「そうか、もう一番じゃなくていいんだ」
楽しくなってお腹を抱えて笑った。ランデュとマリエルは面食らっていた。
その後、僕は王室で元気に暮らしている。象徴とされても仕事はあるもんだ。結構忙しい。週末にランデュとチェスをするのが一番の楽しみだ。
(終わり)
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