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いろんな人を踏み台にしてきた。
みんなが強くなれと言ったから、
愛も情けも捨てて僕はトクベツになった。
世界の王になり、自分の土地を持った。
そこで燃え尽きてダメ君主になった。
この時25歳。
もう頑張るの嫌になった。
でも、頑張ってない僕はいなくていい。
僕なんか死ねばいい。
こういう心理状態を鬱と言うらしい。
あと、燃え尽き症候群とか。
鬱の医者なんていやしない。
僕は政界をドロップアウトし、
風呂にも入らず、布団に隠れ続けた。
「国王様」
ある時布団の中にキレイな女の子がやってきて、僕の前で正座した。
不用心な娘だ。襲われてもいいのかよ。食べちゃうぞ。
「国王様、何が嫌なんですか」
「頑張るのが」僕は答えた。「頑張ってない王なんか、この国に要らない」
「よし、王様やめちゃいましょう!」
19歳くらいの女の子はマリエルと言った。彼女は使用人に何が伝えて、僕を布団ごと担ぎ出した。
僕は王都のはずれのあばらやに移され、懇々と眠った。食事を作る使用人が何人か出入りしている。マリエルは時々見に来てくれた。来るたび本を読んでくれた。
「僕はたくさん殺したんだ」
「戦争の時は、そういう事あります」
「死んだ人のために、止まったらいけないんだ」
「止まったらいけないと思ってるのは、死んだ人ではなく、あなた自身です。もう自分をいじめるのはやめましょう」
僕は何年もあばら家で暮らした。
様子を見に来てくれる人たちは、みんな優しかった。僕を国王と知らないらしい。
ある時枕元に悪魔が現れた。
「何人殺した。責任をとれ」
「嫌だ」
「止まるな、強くあり続けろ」
「嫌だ!!」
「リア様」
マリエルの声で目が覚めた。
彼女は『王様やめましょう』と言った時から僕を名前で呼んでいる。
「リア様、見て。号外です」
彼女は新聞を持って僕のベッドに寄り添った。
「この国は無血革命で議会制になりました。宰相だったランデュが、国を取り仕切ってくれているのです」
「ランデュ、元気かな」
「ええ、リア様を心配していますよ」
「あわせる顔がない」
「そんなこと言わないで。この国での国王は、象徴となりました。発言権も少し残っています。ランデュはリア様が帰ってくるのを待っていますよ」
(続く)
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