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良くないこと。わたしの名案は、また、人に迷惑をかけるものだったのかな。胸が痛んだけれど、寒さのせいかお酒のせいか、頭がぼうっとしてちゃんと考えられない。
「みそれさん……明日死ぬ気で、生きてもいいから」
アサくんの声が、凍えた鼓膜を揺らす。
「今日は、死なないで」
その言葉は麻痺したわたしの心に、ゆっくりと染み込んだ。
「今日、だけ……?」
「うん」
「今日だけで、いいの? 死ぬなんて考えるなとか、みんながんばって生きてるんだとか、言わないの……?」
「言わないよ、そんなこと」
生きていくのは、つらい。しんどい。
未来になんて、不安しかない。
だけど、今日だけなら。
死ぬまでがんばれって言われないのなら、今日だけでいいなら、たぶん。
生きられる。
「わか……った……」
わたしの返事は、音にならなかったのかもしれない。
アサくんはわたしの命を体に閉じ込めたいみたいに、腕にぎゅっと力を込めた。
少し痛くて、苦しかったけれど。初めて抱きしめられた彼の腕の中は温かくて、生きてるという感じがして。
わたしはそれがなぜか、嫌じゃなかった。
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