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1.
「ワイシャツあがるの、明後日の夕方だって。頼んでいい?」
帰宅したアサくんがそう言い、クリーニング屋のレシートを冷蔵庫に貼る。彼の長い指が薄紙を磁石に挟むのを見ながら、わたしは小さくうなずいた。
明後日、か。
あぁ、明日は死ねなくなっちゃったな。
細く長く漏らしたわたしのため息は、かき回しているお味噌汁に混ざって溶けた。
「みそれさん、今日の夕飯なに?」
「しょうが焼きと、菜の花のからし和え。カニカマの茶碗蒸しと、お味噌汁は大根にしたわ」
「あぁ、うまそう。明日の朝に残りそうなものある?」
「ない……かな」
だって、明日に残らないように作っているんだもの。しょうがはチューブ入り、お肉や青菜は1パックが二人分にちょうどの量だし、大根はカットされたものを買う。
少し困った顔をした私ににっこり笑い、アサくんは冷蔵庫からバターを出した。
「明日の朝、ちょっと早くてさ。残るもんがあればサッと食べていこうと思っただけ」
「じゃあ、私のぶん……」
「いや、それはいい。みそれさんはちゃんと食べて。最近、すごく寒いし」
「……うん」
脂肪がつきにくい体質で、わたしは昔から人に「寒そう」と言われがちだ。実際には特別寒がりでも低体温でもないけれど、アサくんもきっと、頼りないわたしを心配してくれているんだろう。
彼はとても、優しいから。
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