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4.
「週末ちょうど満開になりそうだね」
窓の外に広がる冬晴れの空を食卓から眺めて、アサくんが目を細めた。
室内に差し込む光の明るさで、外が春のように暖かいとわかる。きっと今日一日で、硬いつぼみも一気にほころぶだろう。
「桜まで咲いちゃいそうね」
「それは来月のお楽しみにとっときたいな」
二人分の日本茶を淹れながら、わたしはちらりとカレンダーを見た。
日曜日には、アサくんと梅を見に行くことになっている。
来週のことはまだわからない。一緒に桜を見に行ける自信もない。だけどとりあえず、三日は生きていないといけない。
じゃあ、おでんにしてもいいのかな。一晩煮込んで、明日の夜には食べられる。
カレンダーに描かれたお鍋の絵を見たら、出汁の染みた茶色いたまごが食べたくなった。
「ねぇ、おでんの具は何が好き?」
そう聞くと、アサくんはパッと顔を上げて目を輝かせた。
「煮込むの?」
「うん」
「楽しみだな」
今年まだおでん食べてなかったんだ、そう言うアサくんの前に湯呑みを置く。彼は両手でそれを包み、ふうふうと息を吹きかけて飲み始めた。
待っても、待っても、その唇から返事が出てこない。
「それで……どの具が好きなの?」
改めて聞いたわたしに、アサくんはちょっといたずらな顔で、笑った。
「四日目の大根、かな」
【了】
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