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翌週、私は同じバス停で降りた。そこには数人のライダーが居て彼女も出迎えにきてくれた。
彼女は私の方を振り向き手招きをした。私は急いで追いかけて彼女のバイクに飛びついた。「どうせ返すんでしょ、早く返しなさいよ」と急かされたが首を振った。私は「バイクを貰えるようなお金持ちになってから返そう」と考えたのだ。
それから私は彼女と友達になった。連絡を取り合って一緒に遊ぶようになった。名前を成美さんという。
「私をバイクに乗せてくれるお姉ちゃんになってください」
そう頼んだ時、初めて「志乃ちゃんのこと気に入った」と言われ嬉しかったのを覚えている。あの音は今も変わらず聞こえるけど。きっと一生忘れられないものなのだろうと今では思っている。
喜多の街にはバイク屋があった。そこでアルバイトをしている友人がいて、私はバイクが手に入るまでそこに通勤することになった。
辛い作業だが集中している間は耳鳴りを忘れた。仕事の内容は主にバイクの分解整備。毎日バイクの部品が目の前に転がっていた。オイルまみれの手を洗いに何度もトイレへ駆け込んだ。
夜遅く帰る私を成美さんは心配したが真っ黒にカスタマイズしたバイクに乗るためだと説明してもわかってもらえなかった。でも私は彼女に何もかも話したし、相談にも乗ってくれた。
「一つだけ判らないことがあるの。
あの時、成美さんがバイス、バイスって言ってたけど、どういう意味?」
そう言うと彼女は微笑みながら言った。
「"気を付けろ、奴がくるぞ"」と。"奴がやってくる""やつって誰?"そう思った。けれどその時はまだその意味を知ることができなかった。そう遠くない将来で。
明度線の与位喜多駅は天国に一番近い乗換駅として名高い。抜けるような青空と駅舎に迫る紺碧がまるで抜けるような青空と駅舎に迫る紺碧がまるで天女の羽衣みたいに見えるのだそうだ。そして駅の売店に並ぶ名物商品『天空メロンパン』が有名でもある。なんでも地上では見かけられない珍しい品種を使用しているらしく一度食べるとその味が癖になると評判である。しかし人気の秘密はその美味しさだけでは無いらしい。何でもこの菓子を買う客の大半は次の乗り換え時間の確認の為にわざわざ訪れるのだという。駅員の間で「地獄への道標」と言われているほどだと言う噂まであり……
「おい、事故だってよ!」
店長が血相を変えて飛び込んできた。踏切で急行列車にバイクが衝突してそのまま海に転落したという。ダイバーが捜索しているがバイク店に出来ることは列車乗客の救援だ。成美さんがリアシートに医薬品を積んで店を出た。サイレンが鼓膜に突き刺さる。
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