心の中で

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「ど、どうしよう。ついに言っちゃったよ」 帰り支度を終えて教室で待っていた私に、彼女は勢いよく入ってくるなりそばに来て、小声で言った。 息は荒く、困ったような顔をしている。 ちょうど彼女と入れ替わりに、教室に残って話していた女子数人が出ていった後だった。 今は私たち以外に誰もいない。 「ん? 何を?」 私はとぼけたが、彼女が何の話をしているのかはすぐに分かった。 最近は、"明日こそ告白するから!" が彼女の口癖になっていたから。 どうやら、好きな男子に気持ちを伝えたらしい。 「だから、彼に告白みたいなことしちゃったの」 やっぱりね。 「ん? みたいなこと?」 「みたいなっていうか、本当は言うつもりなかったんだけど、なんか流れで伝えてしまって……」 「流れって?」 「さっき職員室に日誌届けに行って、そしたら、ちょうど彼も来てて。顧問の先生のところに行ってたみたいでね。で、用事が終わって職員室を出るタイミングが同じだったから、そのまま途中まで一緒に来たんだけど……あーどうしよう、急に恥ずかしくなってきちゃったよ、あー」 「ちょ、ちょっと、落ち着いて。とりあえず、場所変える? 誰か入ってきてもあれだし」 「う、うん。なんかごめんね」 「ううん、全然いいけど」 彼女にとっては、一大事だろうけど、私はわりと冷静にその話を聞いていた。 というか、いつも落ち着いたテンションで聞いている。そういうタイプの人間だ。 ついに言ったんだ、という多少の驚きはあったけど、遅かれ早かれそうなるだろうなとは思っていたから。 *** ここなら、ゆっくり話せそうだ。 学校と駅の間にある、コンビニの外のベンチ。 間と言っても、少しだけ外れた場所にあるから、学生たちはあまり来ない。 もし誰かがそばを通ったら話をやめればいいだけだし、様子を見ながら居れるだろう。 「それで、どうなったの?」 「それでね――」 教室での話の続きを聞いた。 彼から―― 彼女のことが気になっている、という別のクラスの男子がいる ――ということを伝えられ、その男子に代わって、探りが入ったらしい。 彼女は、せっかく二人っきりになれた嬉しさをはね飛ばされ、まさかの展開に驚きなのと、ショックなのと…… いろんな感情から、溢れる気持ちを抑えきれなくなり、"好き" という言葉を発してしまったらしい。 まったく、彼も、優しいというか、ビビリというか。 私は、彼の性格も知っているから、友達に頼まれて断れなかったんだろうなと、ちょっと気の毒に思った。 「それで、やばい!言っちゃったと思って、焦っちゃって。『ごめん、気にしないで』って言って、そのまま逃げてきちゃったの」 「逃げてきたんだ。彼の気持ちは聞いてないの?」 「うん。だって……そんなの聞けるわけないよ。怖くて聞けない」 「とりあえず、時間もらって、もう一度ちゃんと話してみれば? その前に彼から連絡くるかもしれないけど」 私の言葉はあまり耳に入っていないようだった。 気付けば、だいぶ日が落ちてきていた。 暗くなる前にそろそろ帰ろうという流れになり、駅に向かうことに。 駅までの道のりも、ホームで電車を待っている間も、彼女のあーでもないこーでもないという話をひたすら聞いていた。 電車が到着。 「また何かあったら夜にでも連絡してよ」 と彼女に伝えた。 私は、普通列車しか停まらない駅で降りるから、先に来た特急列車に彼女を乗せて見送る。 「また明日ね」 「うん、じゃあね……。あー、明日、学校行きづらくなってきたよー」 「大丈夫だから。ほら、電車出ちゃうから」 彼女は、不安そうな顔のまま乗車し、帰っていった。 私は、遠ざかっていくその電車を見つめながら、心の中でこっそり彼女に伝えた。 ちょっと早いかもしれないけど―― "おめでとう" 彼女が告白をした彼もまた、彼女のことが好きなことを、私は知っていたから。 私がずっと知らないふりをしていたのは、"ちゃんと自分で気持ちを伝えたい" と話す彼女の思いを大切にしたかったから。 まだ正式に付き合うことになったわけじゃないけど、100歩、いや200歩前進。いやいや、もうほぼゴールでしょ。 とりあえず、ちゃんと相手に気持ちを伝えることができてよかった。 私も嬉しいよ。
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