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サプライズ/炎天堂夏生の誕生日
だからさ、中途半端なんだよな、オレの誕生日って。だってよ、八月三十日だぜ? ンな夏休みもあと一日、誰が覚えてくれんだよ。大体にして、誕生日が夏休みってロクなコトがねーんだよな。そう、いわゆる【夏休みのラストバースデー】ってヤツ。絶対みんなに忘れられてるし、こんな宿題の追い込み時期に、誰が悠長にお祝いしてくれるってんだよ。
だからオレは昔っから誕生日に関してあんまりいい思い出がない。まぁ、オレ自身が毎年毎年宿題ドリルを溜め込んで、母ちゃんと姉ちゃんにどやされながら必死になってる時期だからかもしれないけど。おまけに今年の誕生日はちょうど部活も休みだから、みんなにも会えない。せめて練習があったら気のいいあいつらのことだから祝ってくれただろーに。
……ま、前日に野球部のみんなから『一足早いけどおめでとう』とは言ってくれたし、プレゼントも貰ったんだけどな。でもやっぱり当日じゃないとイマイチ盛り上がりに欠けるって言うか……。って、こんなのタダのゼイタクだよな。当日じゃなかろうと祝ってくれたのはすげー嬉しいし。ただ、ちょっと……寂しいんだろーな、やっぱり。今さらガキンチョみたいに寂しがる気はないけど、それでもやっぱり……。
なんとか国語のドリルを仕上げた休憩中。そんなことをうだうだと考えてると、インターホンが鳴った。誰だろうと思いながらドアを開けると、そこには顔の半分が隠れそうなでかい麦わら帽子を被った、見慣れた仏面頂。紺と白のボーダーサンダルを履いた踵をわざとらしく鳴らして、一言。
「青葉?」
「……ナツくん、もっと早く出てきてほしかったですねえ。どうせ君のことだからだらけていたんでしょうけど」
「う、うるせぇなぁ。なんだよ」
顔合わして第一声がそれかよ!
「これ」
「んあ?」
「あげます」
押し付けられたそれは、近所の本屋の紙袋で。不思議に思いながら中を見ると、そこには色とりどりのMDが大量に詰まってた。そのうちの一つを手にとってみると。ラベルには青葉の綺麗な字が所狭しと並んでて。
「あっ……これ、オレが聴きたかったやつじゃねーか! これも、これもっ!」
「……当たり前ですよ。君が聴きたがっていたのばかり録音してあげたんですから」
「え? でも青葉、これ関係のCD持ってねぇだろ?」
「レンタルショップで借りて来ました」
あっさりと言われて、思わず呆然とした。いくらレンタルって言っても限度がある。しかもこの膨大な量を、全部録音したって言うのか?
「なんでわざわざこんな手の込んだこと……」
「誕生日プレゼントです」
「……え」
「ですから、誕生日プレゼントですよ。結構手間がかかっているんですから、ありがたく受け取るんですねえ」
まだ驚いてるオレを残して、青葉はさっさと帰ろうとする。でもちょっと行ったところでピタリと足を止めると、ゆっくり振り返って。
「ハッピーバースデー、ナツくん」
ゆっくりゆるめられる小さな口からこぼれた優しいお祝いの言葉に、オレも満面の笑みで答えた。
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