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「なあ。お前、帰りたくないか」
飴色の瞳に何故かうっとりとした色を浮かべて彼はトナカイではない何かを見て呟く。
「どこへ」
「そりゃあ、親とか…兄弟、とか…友達……とか」
「そんなものはない。俺はまだ成体になる前に群れからはぐれて本部に拾われた。だから戻る場所もなければ親もない」
「ははは……なんだよ。そっか、お前も……俺と、おんなじ…………」
「おい。こら、起きろ。寝るんじゃない」
すうすうと寝息を立てる彼にトナカイは盛大な鼻息を漏らした。仕方がないといったふうに首を数回振ってから鎖が届く範囲にあったブランケットを咥える。大雑把に彼へ掛けてやってから傍に膝を折って蹲った。
足を投げ出して眠る青年は遊び疲れて電池の切れた子どものようだった。表の浮かれた電飾がその横顔を色とりどりに照らす。
厚い毛で温まった体温を分けるように寄り添ってから、トナカイは円い瞳を閉じた。
「おやすみ、サンタクロース」
彼らがクリスマス戦線の空に駆け出すまであと少し。
窓の外ではひらひらと雪が舞い始めていた。
〈おしまい〉
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