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兄が帰ってくる。
久しぶりの帰省なので、俺は母さんと一緒に家の前で待ち構えていた。寒がりなのに、年の瀬も近い寒風のなか待ち続ける母さんは大したものだ。
もっとも俺は母さん以上に兄の帰省を楽しみにしていた。
兄は昔から頼もしかった。もともと体格が劣る俺を、近所の悪がきから守ってくれたこともある。子供の頃は取っ組み合いの喧嘩もしたが、すぐに仲直りしてまた遊んだものだ。
しばらく待っているものの、まだ兄は来ない。さすがに寒くなってきて、俺は少し身震いした。
家の庭には、昨日降った雪がまだ残っている。庭の隅にある犬小屋の屋根にも、雪が薄く積もっていた。犬小屋にはポチと書かれた名札がかかっている。この名前、母さんは安直過ぎると不満なようだが、俺は意外と気に入っている。ちなみに兄も俺と同意見だ。
それはともかくとして母さんは凍えていないだろうかと思って隣を見やったとき、母さんが口を開いた。
「もうすぐ来るんじゃないかしら。出迎えてくれたとわかったら、それは喜ぶでしょうね」
あの子は昔からあなたを可愛がっていたから、と母さんは楽しそうにいった。俺はなんとなく照れくさくなって、そっぽを向いた。
もうしばらく待っていると、ふいに、俺は懐かしい匂いを捉えた。
その瞬間、勢いよく走り出す。
母さんが制止する声も聞かず、俺は兄のもとへ駆けてゆく。
背の高いその姿は、すぐに見えた。
遠くで、俺に気がついた兄が両腕を広げた。
俺は持ち前の俊足で、一瞬の間にその腕の中へたどり着いた。
ハッハッと息をする俺に、兄は俺の頭を撫でながら嬉しそうにいった。
「久しぶりだな、ポチ。元気にしてたか?」
【終】
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